【スローに歩く、北欧の旅 #8】北欧デザインの巨匠が愛したサマーハウス
みなさん、こんにちは。北欧を旅するライターの森百合子です。
カボニューにつながる、北欧での体験を紹介するこの連載。前回につづいて北欧のサマーハウスのお話です。今回は、北欧デザインを代表する建築家、アルヴァ・アアルトのサマーハウスをご案内したいと思います。
建築の実験を試みた夏の家
アアルトはフィンランドの建築家であり、現在につづく北欧モダンデザインの礎を作ったひとり。日本にもファンが多く、かくいう私も北欧に興味をもつようになったきっかけがアアルトでした。初めての北欧旅行ではアアルトの建築めぐりをメインに計画をたてたのですが、サマーハウスも訪れることができました。
アアルト建築は首都ヘルシンキにある自邸や仕事場から、北極圏にあるサンタクロースの町ロヴァニエミの市庁舎や図書館まで、フィンランド各地で見ることができます。アアルトが少年時代を過ごしたユバスキュラの町にはもっとも多くの建築が残されていて、アアルトの軌跡を追うことができるミュージアムもあります。サマーハウスは、このユバスキュラから20キロほど離れたムーラッツァロ島の西岸にあり、通称「コエ・タロ」と呼ばれています。コエ・タロとはフィンランド語で、実験住宅の意味。フィンランド特有の岩盤を利用して、基礎なしで建物を作るなど、アアルトはこの地でさまざまな実験を試みたのです。
1952年から54年にかけて建てられたコエ・タロ。森のなかを進んでいくと、白く塗られた外壁が目をひきます。建物自体はそれほど大きくないのですが、中庭を囲む壁の高さに圧倒されます。
外面の白い壁とは対照的に、中庭に面した外壁はレンガが貼られています。よく見るとさまざまなサイズのレンガやタイルが複雑に貼られ、まるでパッチワークのようになっているんです。
アアルトはこの壁で、レンガやタイル材の積み方、貼り方、そして耐久性の実験をしていました。また実現には至りませんでしたがレンガ壁で太陽熱暖房の可能性も探っていたそうです。中庭は床面にもレンガが敷かれ、中央には火を焚ける炉もありました。北欧の家では暖炉が家の中心となっていることが多いのですが、コエ・タロでは中庭の炉が家全体の中心である、とアアルトは語っていたそうです
ボートやサウナ小屋も自前で
サマーハウスが面しているのはパイヤンネ湖。当時は近くまで道路が通っていなかったために、ボートで湖を渡っていたそうですが、そのボートもアアルトがデザインし、地元の職人に作ってもらったというもの。私が訪れた当時は敷地内に保管してありましたが、いよいよ老朽化が心配され、現在は別の場所に保管されています。
湖のすぐそばにはサウナ小屋も建てられています。前回、スウェーデンでは海沿いのサマーハウスが人気と紹介しましたが、フィンランドでは湖畔にサウナ小屋を持つのが最高の贅沢なのだとか。ちなみに「サウナ」もフィンランド語だってご存知でしたか?フィンランドはサウナの国であり、サマーハウスにもサウナがかかせません。
地面の傾斜をそのまま活かして建てられたサウナ小屋。木材は、敷地内で倒れた木々を使っているそう。スモークサウナと呼ばれる伝統的なスタイルのサウナ小屋で、煙突がないのが特徴です。またアアルト建築はドアの把手デザインがユニークなことでも知られていて、サウナ小屋の把手にも遊び心が伺えます。
サウナで体を温めた後は湖にざぶんと飛び込める最高のロケーション。サウナは外側のみの見学でしたが、訪れた日は絶好の湖水浴日和。一緒に見学していた人々は気づけば湖に飛び込んでいました。私も水着を持ってくればよかった……!と後悔しつつ、ひとまず足だけつかってリフレッシュしてきました。
忙しい日常を離れて夏を楽しむ一方で、建築素材や自然の恵みを有効に使う手立てを考える場所でもあったコエ・タロ。その後も豪華な住宅から公共施設まで各地でいろいろとアアルトの建築を見てまわりましたが、周囲の自然と共生するようなコエ・タロのあり方はアアルトの原点のようにも思えて、とくに印象に残るものでした。
コエ・タロは6月~9月の夏季に公開していて、ガイドツアーに申し込めば見学可能(アアルト・ミュージアムのサイトより予約できます)。北欧デザインの巨匠が夏を過ごしたサマーハウス。建築好きにはもちろん、北欧のスローライフに興味のある方にもぜひ訪れてほしい場所です。
夏の日に、草むらでくつろいでいた猫さん。それでは、もいど!(フィンランド語で、じゃあね!)
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