【スローに歩く、北欧の旅#12】今あるものでクリエイトする アイスランドのファッションレポート
みなさん、こんにちは。ライターの森百合子です。カボニューにつながる、北欧での体験を紹介するこの連載。今回はアイスランドのサスティナブルなファッションブランドについてご紹介します。
アイスランドの首都レイキャビクに店を構える「svart by svart」は、フィンランドとスウェーデンにルーツをもつデザイナーのマルコ・スヴァートさんと、日本出身のモモ・ハヤシさんが立ち上げたアパレルブランド。ブランドの根幹にあるのは、サスティナビリティです。レイキャビクの目抜き通りからほど近い場所にあるショップ兼アトリエでは、リサイクル素材のみを使用した服やアクセサリーがひとつひとつ手作りされています。サスティナブルなファッションを作るための試みについて、モモさんにインタビューをしました。
環境と対立しないために
ーー「Svart by Svart」ではサスティナブルであることをブランドの軸にしていますね。その考えは、ブランドを作る当初からあったんでしょうか?
「はい、始まりはそこからなんです。ファッションって、環境問題と対立してしまうものですよね。大量生産の問題があり、流行を追って次から次へと作り出されては物があふれてしまうのが現状です。でも、私たちは、新しい素材を使いたくないんです。今あるもので楽しく作っていくのが私たちのやり方です。」
ーー新しい物を使わない、ということは、どうやって素材を探すのでしょう?
「赤十字から調達することが多いですね。もらうこともありますし、募金を兼ねて買うことも。服やブランケットなどをまとめて買い取ります。それから、この店のオーナーはもともとファッション業界にいた人で、いまも大量に生地を持っているのでそれを譲ってもらったこともありますね。」
ーーそういえばレイキャビクにある赤十字のお店は、おしゃれな内装の店舗が多いですね。ファッションに対して、消費者側の考え方も日本とは違うのでしょうか?
「そうですね。赤十字とひと口に言っても洋服や生地が充実している店、食器が充実している店と店舗ごとに特徴があって、なかには、毛糸や麻などの素材も置いてあるんですよ。アイスランドの人はファッションに関してはおおらかですね。四季の差が日本ほどないので、一年を通して同じ服でも、なんなら毎日同じ服でもいいくらい。もともと貧しい国だったというのもありますが「服は高いもの。だから長く着る」と考える人も多いです。ファストファッションは数年前にようやく参入してきたくらいですから。着なくなった服はフリーマーケットに出す人も多いです。それはお金にしたいというよりも、まだ着られるものを捨てたくないんですよね。」
ーー町を歩いていると、年季の入ったロパペイサ(アイスランドの伝統的な編み込みセーター)を着ている人をよく見かけます。
「セーターやジャケットは長く着てなんぼ、っていうところがありますね。新品は高いのでフリーマーケットや赤十字の店で探す人も多いです。古着への抵抗はあまりないですし、若い人に限らず、おばあちゃん達もフリーマーケットの情報を交換していますしね。古いから価値が下がる、と考えるわけじゃないんです。」
海から学び、問題提起する
ーーものづくりのインスピレーションはどこから生まれますか?
「レイキャビクは海に面した町なので、やっぱり海から発想を得ることは多いですね。クジラやパフィン、海鳥などをモチーフにすることもあります。」
ーー魚の骨を使ったアクセサリーもありますね。面白いなと思ったのが、漁網をモチーフにしたピアスや、漁網を使った服。網を使うことにはどんな背景があったのでしょう?
ゴーストネット(廃網)ですね。マルコと海岸を散歩していた時に網がそこらじゅうに捨てられているのを見て不思議に思っていたんです。アイスランドの海って、他のゴミはあまりないのになぜだろう、と。調べていって、漁網が流れ着いていたと知りました。昔からの習慣で、使った網はそのまま海に捨てるらしいんです。ただかつては漁網も漁師たちが結って自作していたのが、いまは化学繊維を使った工場生産の安価な網があって、それが海中で分解されることなく大量のゴミとなってしまっているわけです。ならばそれを利用できないかな?と考えました。
漁網を作っている工場にも話をしにいったところ、彼らも環境のために何かしたいと歓迎してくれて、使わなくなった漁網をもらってきて服を作ったんです。これはミラノのデザインウィークにも出展しました。ピアスは実際の網を使っているわけではなく、問題喚起をしたくて、麻で作ったものです。
自分でできる範囲でしか作りたくない
ーー首都でショップを維持していくのは、大変ではないですか?
「ビジネスとどう両立させるかは常に頭を悩ませる問題です。でも大量生産は自分のやりたいことと矛盾してしまう。私たちは、自分で作れる範囲のことしかしたくないんです。それが好きですし、使命感があります。」
ーーお二人は「Svart by Svart」の他に、モモさんは幼稚園で先生をしているし、マルコさんは博物館で働かれているんですよね。アイスランドの人は、医者だけどミュージシャンもしている、大工だけど物書きもするといった具合で、副業というのか、いろいろな仕事を両立する人が多い印象があります。
「アイスランドはそれがあたりまえですね。別の仕事をしながらやりたいことを両立する。だいたいみんな何かやっていますね。友人たちと会っていても「これがしたい」「これを始めた」という話が多いんです。私たちはお店というスペースを持つことで、場所を提供できるのも嬉しいんです。好きなアーティストとコラボもできますし、展示会をしたり、人が会う場所にしたいです。」
長く、誰が着てもいい服を
ーーこれまでで、記憶に残っているコラボレーションはありますか?
「2年前に、レイキャビクに暮らすフィンランド人陶芸家とコラボして『よみがえり』と名づけたコレクションを作りました。色のないコットン生地を使って、染めも手掛けました。海で拾ってきた金属を使って色を出したり、他にも玉ねぎの皮やコーヒーかすを使ったり。染色は陶芸家の彼の庭でやったのですが、そこに生えていた植物も使ったりと面白い試みになりました。
アイスランド・エアウェイブス(アイスランド随一の音楽フェス。海外からの参加者も多い)の時に、この店で小さなコンサートをしたのも楽しかったですね!観光客も多い時期ですし、ノルウェー人のアーティストが来ていたので、レイキャビクのDJにも声をかけて一緒にやろうよと。」
ーーフィンランドやノルウェー、スウェーデンといった北欧各国、そして日本が交流する場のようになっていて面白いですね!
「アイスランドの人がうちの店に来ると、日本っぽいねと言うんです。北欧と日本のデザインは、ミニマルな美しさを大事にするところが似ているんだなと改めて思います。」
ーー「Svart by Svart」の服はジェンダーレスでもあります。マルコさん、モモさんお二人の着こなしもいつも素敵です。
「シンプルで長く着られて、誰が着てもいい。ジェンダーレスでタイムレスな服を作っていきたいですね。お店を構えて3年になりますが、お客さんが私たちに求めるものと、私たちが作りたいものが一致していると感じられるのは嬉しいです。そうそう、お客さんや友人が「ここでなら何かに生まれ変わるかも」と服やさまざまな素材を持ってきてくれることもあって。自分たちの店が、そういう場所として認識してもらえるのが嬉しいです。」
物づくりの考え方も、店を構える理由も、自分たちのやりたいことに誠実でそれが「Svart by Svart」というブランドと店をユニークで唯一無二の存在にしているのだなと感じるインタビューでした。これまでのファッション業界の常識とは異なる発想で制作をつづけるお二人に、また話を聞いてみたいものです。
マルコさんの膝の上にのっているのは、飼い猫ではなく、ご近所の猫さん。レイキャビクは猫の町としても知られていて、歩いていると自由気ままにふるまう猫たちによく遭遇します(猫好きにもおすすめしたい北欧の町なんですよ〜)。Svart by Svartにも、たまにこうしてご近所の猫さんたちが遊びに来るようです。
それではブレッス(アイスランド語で、またね)!
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