【スローに歩く、北欧の旅#32】3年半ぶりの北欧旅行で、いちばんに飲みたかったクラフトビールの話
みなさん、こんにちは。北欧を旅するライターの森百合子です。カボニューにつながる、北欧のさまざまな試みを紹介するこの連載。今回からはひさしぶりに訪れた北欧の旅のレポートをお届けします!
この5月~6月にかけて、3年半ぶりに北欧を旅してきました!今回の旅先はスウェーデンの西海岸側とデンマークの首都コペンハーゲンです。環境を守る施策や気候変動に対応する試みや新しいアイデアをたくさん取材してきたので、じっくりとご紹介していきますね。
デンマークを望む港町へ
北欧を旅する時は、日本から直行便が飛んでいるデンマークの首都コペンハーゲン、またはフィンランドの首都ヘルシンキから旅程を組むことが多いのですが、今回はコペンハーゲンから旅のスタートとなりました。コペンハーゲンは隣国スウェーデンに面したシェラン島に位置していて、電車や車でわずか20分〜ほどで国境を越えてスウェーデンに行くことができます。今回はコペンハーゲンからスウェーデン西海岸沿いの町をまわることにしました。
さてひさしぶりの北欧でまず向かった先は……スウェーデンの南西にある港町ヘルシンボリです。ヘルシンボリから対岸にあるデンマークの町ヘルシンゴアまでは、わずか4キロ。このヘルシンボリはかつてはデンマーク領だったこともある町で、その面影を随所に留めています。コンパクトな規模ながら歴史的な建造物や、かつての暮らしがのぞける野外博物館など見どころたくさん。そしてこの町ではスウェーデンで最高のビールが飲めるんです。
スウェーデンを代表するクラフトビール
町の南側にある工場地域に、クラフトビール好きの間で知られる醸造所ブリュウスキができたのは2014年のこと。大企業で働いていたマーカス・ヤルマーションさんが忙しすぎる暮らしに嫌気がさして、趣味で始めたというビールづくりが、またたく間に評判を呼んで国内外のビール好きに知られる存在となりました。現在は世界36カ国に輸出されて日本でも輸入されており、スウェーデン大使館のイベントでもふるまわれるなど国を代表する味となったのです。
私がマーカスさんと出会ったのは2017年のこと。出会いはじつは偶然で、ブリュウスキの醸造所の隣にあるコーヒーの焙煎所(このコーヒーも絶品です!)で取材した帰りにふと見ると、醸造所の前にマーカスさんが立っていて「日本から来たの?」と声をかけてくれたのです。そのまま話が弾んで醸造所の見学とインタビューをさせてもらえることになりました。
ブリュウスキを代表するビールといえば、パッションフルーツを使ったフルーティでジューシーな味わいのIPA『マンゴーフィーバー』。ビール作りを始めた当初は資金がなく高品質のホップを手に入れることができなかったため、代わりにベリーやパッションフルーツなど果実を使って思い描いていた味を実現したというマーカスさん。それが大ヒットとなったのです。
他にも『ブルーベリーパイ』などスウェーデンらしく酸味と甘味のきいた独特の味もあり、ファンを魅了しつづけるブリュウスキのビールは、現在はすべて缶で提供されています。かつてはガラスボトルも一部使用していましたが、輸送にかかるコストや環境負担が少ないからといまでは缶オンリーに。ちなみにブリュウスキのトレードマークとなるシルクハットをかぶったキャラクターやユニークな缶のラベルデザインは、マーカスさんの愛息が描いたもの。
リサイクルできるビア樽
そしてブリュウスキのファンが毎夏楽しみにしているのが、醸造所の屋外スペースで8月に開催されるビアフェスティバル。世界のクラフトビールの造り手が参加し、7000人ものクラフトビールファンが集う一大フェスティバルです。
このフェスで2015年の第一回から使用されているのが、キーケグと呼ばれるリサイクル可能なビア樽です。ケグとはビールの貯蔵に使う樽のこと。従来のビア樽はステンレス製で、使用後に洗浄して返却するのが常でしたが、ペットボトル素材を使用したキーケグは使用後に専用の器具でガスを抜いてつぶし、プラスチックごみとして100%リサイクルできるというもの。返却する手間や輸送コストを減らす、エコなビア樽としてヨーロッパを中心に浸透しています。
キーケグは、OneCircleというオランダに拠点を置く家族経営の会社が作っており「醸造所を始めた当初から彼らのことは知っていて、ケグを使うとなった時にキーケグ以外の選択肢は思いつかなかったんだ。小さな醸造所がいろいろなコストを節約できるのはもちろん、リサイクルできるのがいいよね」とマーカスさん。
ブリュウスキでは醸造所の一部を若手醸造家に貸したり、小さな醸造所をつなぐプラットフォームづくりなども行っていて、コロナ禍で打撃を受けたクラフトビール業界を元気づけるマーカスさんは北欧のクラフトビール界におけるリーダーのような存在でもあります。ビールのおいしさはもちろんのこと、マーカスさんの人柄もブリュウスキの魅力なんですよね。
昨年秋に東京のデンマーク大使館で開催されたビアフェスティバルにも参加していたマーカスさんとブリュウスキ&ヘルシンボリ(とそのファン)チーム。今年もまた10月に来日され、ビアフェスティバル(10/14&15にデンマーク大使館で開催するMBCTというビアフェスです)に参加されるとのこと。日本でもマーカスさんとブリュウスキの味に会えるのは嬉しいですね!
ブリュウスキのバー(バースキと呼ばれています)では昨今は近郊で作られるスモーキーなバーベキューも提供中。これがまたおいしくてビールに合うんです!訪れる際にはぜひ一緒に味わってみてください。
またヘルシンボリのほかノルウェーのオスロ近郊の町リレストレムや、2023年の夏にはフィンランドのヘルシンキにもバースキをオープンしたばかり。今後ますますファンを増やしそうです。
クラフトビールというと、個性的な味わいやおしゃれなラベルデザインについ意識がいってしまいますが、北欧で取材をしていると、サステナブルな選択が当たり前のようにされていることにも気づきます。今後もまたそうした例をご紹介していきたいと思います!
ブリュウスキのビールにも猫さんが!その名も「Purrrfect(プルフェクト、でしょうか)」、猫のプルルという鳴き声とパーフェクトを合わせた絶妙なネーミングですね。味はヘイジーでフルーティなダブルIPAのビールだそうです。それでは、スコール(スウェーデン語で乾杯)!
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