【スローに歩く、北欧の旅#36】デンマークの森でトロール・ハントしてきました!その①
みなさん、こんにちは。北欧を旅するライターの森百合子です。カボニューにつながる、北欧での体験を紹介するこの連載。今回は北欧の人々が大好きな”トロール”を、デンマークの森へ探しにいったお話です。
北欧の人々が大好きなトロールとは?
夏の雰囲気がまだ残る8月末のデンマークで、念願のトロール・ハントをしてきました。……え、トロールって何?と思ったみなさん。トロールとは、北欧の神話や民間伝承によく登場する生き物であり、英語圏ではエルフと呼ばれることも。日本でいうところの妖怪、妖精にあたる存在です。
森や山など自然のなかに暮らし、巨大なトロールもいれば小人のようなトロールもいます。時折人々にいたずらをしたり悪事をはたらくトロールもいれば、手助けをしてくれるトロールもいます。日本の子どもたちにも親しまれているノルウェーの絵本「三びきのやぎのがらがらどん」には、やぎ達を食べてしまおうとする恐ろしいトロール(絵本ではトロルと表記されています)が登場しますし、フィンランド生まれの大人気キャラクター、ムーミンもトロールの一種なんですよ。
さて私が今回デンマークで探してきたのは、コペンハーゲンを拠点に活動するリサイクル・アクティビストであるトーマス・ダンボ氏が生み出したトロールたち。廃材を利用して、トロールをはじめとするユニークなオブジェを世界各地で作り続けている人なのです。
ダンボ氏が2014年から取り組んでいるのが、地元の廃材を使ったトロール像を森や自然のなかに置くインスタレーション。その発想の面白さとスケールの大きさに多くの人が魅了され、いまや世界中で引っ張りだこの人気ぶりなのです。ベルギーやドイツなど近隣ヨーロッパをはじめ、アメリカでも数多く作られていて、アジア圏では中国や韓国に既に進出しているトロールたち。2023年の春にはなんと100体目が作られましたが、なんといっても数多く置かれているのはダンボ氏の母国デンマーク。首都コペンハーゲン近郊にもたくさんのトロールが隠されているんです!
世界中に隠されたトロールたち
まずは日本から直行便が飛んでいるコペンハーゲンのカストラップ空港から、車で30分ほどで行ける森にいるというトロールを目指しました。カストラップ空港のあるアマー島の北側には、以前の記事(#18「ゴミ処理施設が、町のランドマークに」)でご紹介したゴミ処理プラントをスキー場にしてしまった『コペンヒル』や工場地帯があり、緑豊かな南側の地域には農場や乗馬クラブ、ゴルフ場などが広がっています。トロールがいるとされるのは、ドラウェアとよばれる地区にある森。トロールがいると思われる場所は車で入ることができないため、近くに車を停めて地図を頼りに歩いていきました。
ダンボ氏のサイト「トロールマップ」には世界各地で既に発見されたトロールたちの居場所が掲載されています。グーグルマップでもトロールの場所を見つけることができ、既に訪れた人たちの口コミもたくさん見られます。それによるとトーマス氏のトロールは外からは見えない森の中に設置されているのがお約束とのこと。果たして初めて訪れる森の中で無事、見つけられるのでしょうか……。
道を進んでいくと、時折サイクリングやジョギング、犬の散歩を楽しむ人ともすれ違いました。こんな場所で日々、ジョギングできたらいいなあ~などと思いつつ10分ほど歩いた頃でしょうか、大きめの石がつらつらと置かれている場所に遭遇。これはもしや、トロールからのサインでは……?勘を頼りに道からそれて、森の中へと入っていきます。
そのまま進んでいったら、当たりでした!トロールがいます!!大きい!!
どのくらい大きいかというと……トロールの腕の下から顔を出してみました。わかるでしょうか。
よじ登ってみました。楽しいです。
この森で出会ったのは「ビャルケ・サークルストーン」と名付けられたトロール。トロールにはそれぞれ名前があるのですがその名前からして、どうやら石が好きなトロールのよう。だから来た道にも石がヒントとして置かれていたんですね。手には爪もあり、ヒゲは木の枝で作られています。この大きさといい、細工といい、森のなかでの制作は大変そうですが、有志ボランティアの手を借りて行っているとのこと。
森や自然へと誘う存在
このビャルケ氏は「トロール・パーティ」と名付けられた企画で作られました。この企画ではコペンハーゲンのあるシェラン島から海を越えたユトランド半島まで、デンマーク全土に10体のトロールが作られています。10体のなかには海に向かって釣り糸を垂らしているトロールや、港のそばで船を引っ張っているトロールなど、置かれた土地柄を生かしたトロールもいるようで、顔つきも大きさもさまざま。ビャルケ氏はかなり大きいですが穏やかな顔つきで、これなら子ども達も怖くないでしょうか……いや、森で出くわしたら、やっぱりびっくりするでしょうか。
森のなかにひっそりと佇むトロールを発見した時は、子どもの頃の宝探しのワクワク気分や、見つけた時の嬉しさを思い出しました。これは、他のトロールたちも探したくなっちゃいますよね。トロールに導かれて、子どもも大人もワクワクしながら森や自然のなかへ……これこそダンボ氏がトロールづくりで目指していることなのです。
こうして書いてきてふと思ったのですが、トロールはどう数えたらいいのでしょうね?人ではないので、ひとりふたりというのはおかしいですし、一匹二匹、一頭二頭というのも何か違う……やはり1トロール、2トロールですかね。
次回、トロール・ハントの後編では、トロールに導かれて訪れた美しい湿原や、トロールが生まれた背景についてご紹介します。
トロール・ハントから帰る道で、またしてもご近所猫のチャーリーがお出迎えをしてくれました。
デンマークのお隣の国北欧の民話では、「トロールキャット」とよばれる猫の存在が語り継がれています。人間の髪の毛や木の屑から魔女の手によって作り出されるというトロールキャット。何やら恐ろしい気がしますが、不要なものから作り出すとはサステナブルな手法ともいえますね。それではヴィシース!(デンマーク語でまたね!)
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