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【スローに歩く、北欧の旅#37】デンマークの森でトロール・ハントしてきました!その②

みなさん、こんにちは。北欧を旅するライターの森百合子です。カボニューにつながる、北欧での体験を紹介するこの連載。前回につづいて、デンマークのリサイクル・アクティビスト、トーマス・ダンボ氏が作り出したトロールを探すお話です。


野生動物と共存するトロール

さてトロール・ハントの続きです。廃材を利用して作られたトロール(北欧の妖精にあたる存在。詳しくは前回記事をどうぞ)探しで、次に目指したのは、コペンハーゲンの中心街から車で20分ほどのヴァレンスベーク湿原。沼を中心に広がる美しい湿地帯に2体のトロールが隠れていると聞いて、探してきました。

沼のまわりにはいくつかの公園があり、ところどころベンチが置いてあったりきれいに整備されている一方で、部分的に手つかずの自然が残されています。この湿原は野生の植物や動物が生息しやすいよう、また生物多様性を実現する場所として自治体が管理しているとのことで、季節ごとにさまざまな野生動物に会えるそう。とくに野生の水鳥の種類が豊富で、私が訪れた時には白鳥やカモのほかに鵜がいました。ほかには雁やサギ、オオバンやカイツブリ、また猛禽類のノスリやフクロウもいるそうです。野生動物としてはキツネやテンの姿も見られるとか。

沼の近くを歩いてしばらくすると、トロールが隠れていそうな木が茂った一帯がありました。ええ、この奥にいそうです……。

いました〜〜!前回ご紹介したビャルケよりも小さくてかわいらしいトロールで、その名もリトル・ティルデ。顔つきも少し子どもっぽくて、かわいらしいのです。

小さめとはいえ、このくらいの大きさがあります。よく見てみると、リトル・ティルデの体にはところどころ小さな丸い穴が開いています。これは鳥やリスが雨風や寒さをしのいだり、休息できるようにと内側に隠された小屋の入口なんです。ティルデの体には28もの小屋が隠されていて、この地を訪れる野生動物たちを守る存在でもあるんですね。

リトル・ティルデが見つめる方向には沼があり、もう1体のトロールは対岸の丘のなかに隠れている模様。沼にある桟橋の先には、自分でロープを曳いて渡れる筏のようなものが設置してあり、以前はこれで沼の対岸へ渡れたようですが、残念ながら現在は使えなくなっていました。そこで、ぐるりと沼のまわりを歩いて対岸へと向かうことに。

トロール探しの途中で羊に遭遇

沼の北側を歩いていると、広い野原に羊がいました!見渡すと結構な数がいて、はむはむと草を食べているところ。後に調べてわかったのですが、地元のビジターファーム(一般来客を受け入れている農場)と牧草協会との協力により、羊を放牧しているとのこと。こんなに近くでたくさんの羊をゆっくり見たのは初めての体験でした。

さらにしばらく歩いていくと小高くなっている丘があり、木が茂っています。はい、においますね~。きっとこの丘のどこかにトロールがいる予感。小道からそれて丘に向かって登っていくと……やっぱり、いましたー!

今回出会ったのは、その名もトーマス・オン・ザ・マウンテン。失礼しました、ここは丘じゃなくて、マウンテンなんですね。このトロールは体がとても長く、寝そべって丘……じゃなくて山からティルデのいる沼の方を眺めています。

よじ登りやすいからでしょうか、トーマスの腿の辺りには穴が開いていました。トロールの修復は、基本的にダンボ氏の指示のもと行われるようですが、地域のボランティアを募って行うなど、修理や維持の面でも地域の人々を巻き込んで関心が向かうようにしています。

反対側の脚にそろりと乗らせてもらって記念撮影をした後は、またしばらく周囲を散策することに。沼の南側とはまた景色が違います。この辺りでは植物の多様性を維持するため、草木の手入れをしすぎないようにしているとのことで、沼の北側にはとくにめずらしい野生のハーブや草花が多く見られるそうです。植物に詳しい方と散策したら、また楽しいでしょうね!

トロールが生まれた背景

今回、出会ったティルデとトーマスは、2016年にコペンハーゲン郊外の6つの自治体が主催するカルチャーイベントでお披露目されました。ティルデがいるのはヴァレンスベークという町で、トーマスがいるのはアルバスルンという隣町。各自治体に1トロールずつ、合計6トロールが作られました。トロールのおかげでヴァレンスベーク湿原のような「地元の隠れた魅力に気づくことができた!」と喜ぶ声も多いそう。

ちなみにトーマスがいるアルバスルンという町名はどこかで聞いたことがあるな……と記憶を辿ったところ、デンマークの有名な照明器具メーカー、ルイス・ポールセン社に「アルバスルン」の名がついた照明があると判明。かつてこの町の都市開発のためにデザインされたものだと、今回改めて知りました。

前回の記事でご紹介した、石が好きなトロールのビャルケはティルデやトーマスよりも新しく作られたもので、じつはコロナ禍の影響から生まれました。2020年、本来ならば世界各地で25体ものトロールを作る企画があったダンボ氏ですが、新型コロナウィルスの流行で、すべてのプロジェクトが中断を余儀なくされました(じつは東京オリンピックでも何らかのオブジェを作る企画があったそうです……!)。この先どうしようと悩んでいた時にダンボ氏が思いついたのが、旅ができなくても楽しめる「コロナフレンドリーな宝探し」企画。地元でトロールを探して楽しもう!と新たにデンマーク国内に10のトロールを設置したのです。

「廃材は宝の山」と話し、地元の廃材から世界中の人々を夢中にさせるトロールを生み出したダンボ氏は、コロナ禍という制限のなかでも素晴らしい企画を生み出したんですね。

今年春に完成した100体目のトロールも、母国デンマークの森の中に置かれました。ムーン・マザーと名付けられた新トロールは母の名にふさわしく、これまでの作品を凌ぐ大きさだそうです。記念すべき100体目のトロールを探し出すには、これまでに作られたトロールたちのそばに提示されているQRコードをすべて集める必要があると聞いて気が遠くなりましたが(ええ、確かにトロールの体やそばの石にQRコードがありました!)、世界中のトロールファンの協力により、めでたくムーン・マザーは発見されました。

観光地とは違う、素朴な自然や森のなかを探索するきっかけをくれるトロールたち。地域の人々にとっても、地元の魅力を再発見する入り口となっているのが良いですよね。またティルデのようなトロールを通して、厳しい自然に生きる動物たちの暮らしへの想像力も膨らみますし、トロールや動物たちの居場所である森を守りたいと思う気持ちも育っていきます。そしてなんといっても、この魅力的なトロールたちがすべて廃材から生まれていることが、ゴミや廃棄材、リサイクルに対する考え方を変えるきっかけとなります。子どもも大人もワクワクさせながら、学び知るきっかけをくれるトロールたち。いつか日本の森にも来てくれるといいですね!

ご近所の庭や木々の合間を自由に行き来している猫のチャーリー君も、芝生でごろごろしたり自然のなかで過ごすのが好きなようです。それではハイハイ!(デンマーク語でバイバイ!)

プロフィール  森 百合子(もり ゆりこ) 

北欧5カ国で取材を重ね、ライフスタイルや旅情報を中心に執筆。主な著書に『3日でまわる北欧』(トゥーヴァージンズ)、『北欧ゆるとりっぷ』(主婦の友社)、『いろはに北欧』(学研プラス/地球の歩き方)など。執筆活動に加えてNHK『世界はほしいモノにあふれてる』『趣味どきっ!』などメディア出演や、講演など幅広い活動を通じて北欧の魅力を伝えている。築88年の日本家屋に暮らし、北欧デザインを取り入れたリノベーションや暮らしのアイデアも実践中。 
HP:https://hokuobook.com
Instagram:@allgodschillun

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