【スローに歩く、北欧の旅#40】クリスマスに贈りたい、北欧のアレのお話
みなさん、こんにちは。北欧を旅するライターの森百合子です。カボニューにつながる、北欧での体験を紹介するこの連載。今回は北欧でクリスマスギフトに選ばれることの多い、”あるもの”についてお話します。
北欧で本格的にクリスマスシーズンがはじまるのは、約1ヶ月ほど前から。クリスマスイブ直前の日曜日から数えて4週前、アドベント(キリスト教の待降節)に入ると、クリスマスへのカウントダウンがスタート。町中の広場ではクリスマスツリーが販売され、週末にはクリスマスマーケットが開かれて、デパートの営業時間も普段より長くなり、ギフトや食材、デコレーションなどクリスマス用の買物をする人々で賑わいます。
さて北欧ではクリスマスに本を贈る習慣があるのを、ご存知でしょうか。12月に訪れたヘルシンキやオスロの町で書店は大きな賑わいを見せていました。気忙しい時期ですが、贈る相手のことを考えながら本を選ぶなんていいなあと思ったものです。
わたしの好きな書店はスウェーデンのストックホルムにあります。子ども向けの本を揃えるBOKBOK(BOK=ボクはスウェーデン語で本のこと)には、『長くつ下のピッピ』や『ロッタちゃん』シリーズなど日本でも人気の高いアストリッド・リンドグレーンの作品をはじめ、森に暮らす妖精やのどかな田園の暮らしを描いた絵本作家エルサ・ベスコフなどスウェーデンの王道といえる絵本から、新進作家の作品など国内外の注目の本までがぎゅっと詰まっています。
今年、数年ぶりに立ち寄ることができたのですが、気候変動や環境について学べる絵本も増えていました。レジ横のいちばん目立つ場所に置いてあったのが、下の一冊。グレタ・トゥーンベリさんのイラストが目を引く絵本は、スペインの著者による『Little People, Big Dreams(小さなひとりの大きなゆめ)』と題したシリーズ。よりよい世界をめざして活動する人々を紹介する、子ども向けの伝記絵本です。
伝記というと堅苦しく聞こえますが、とにかく絵がかわいくて装丁もとってもおしゃれ。シリーズで取り上げている人物もさまざまで、マザー・テレサやガンジーといった偉人から、俳優のオードリー・ヘップバーン、歌手のデヴィッド・ボウイ、最新作はサッカー選手のリオネル・メッシと幅広いんです。現在シリーズは60冊にものぼり、33カ国語に翻訳され、これまでシリーズ合計で900万部を売っているとのこと!
BOKBOK店主のカロリーネさんに聞くと、こ絵本はプレゼントとしても喜ばれているそう。一冊ごとに異なるイラストレーターが絵を手掛けているのも面白く、これは集めたくなりますね。見返し(表紙の内側)までかわいいんですよ〜〜。
そうそうたる顔ぶれに続いて取り上げられたグレタさん版は、2020年に発売されています。グレタさんはスウェーデンでもやはり人気があるんでしょうか?と尋ねると、
「でも、彼女が特別ということではないんです。もちろん彼女がきっかけとなって行動する人は増えたと思いますが、彼女だけが戦っているわけではないですからね」と話すカロリーネさんの言葉も印象的でした。
つづいてカロリーネさんに、カボニュー読者におすすめのスウェーデンの絵本を教えてもらいました。
「この作者は気候や環境、リサイクルをテーマに描いていて人気があります。これはヴェガという少女のシリーズで、ゴミがどういう仕組みでリサイクルされていくかを描いているんです」
どこか日本のアニメとも通じる、とっつきやすい雰囲気の絵柄です。ページをめくってみると描写がとっても細かい!好奇心旺盛な少女ヴェガが、ある日バナナの皮を捨てようとして「この皮は捨てられた後、どうなるの?」と疑問に思ったところから物語は始まります。ゴミの清掃員として働くご近所のフレッデさんに、ゴミ処理場やリサイクルセンターに連れていってもらって、その行く末を見て学んでいくのです。
スウェーデンのゴミ収集事情については、こちらの記事(【#21】スウェーデンから届いた セーゲルステッド家の暮らし②)でもご紹介をしています。素材ごとに細かく分別されたゴミ箱や、いらなくなった家具や衣服を各自で持ち込めるリサイクルセンターの様子も、絵で見るとよくわかります。言葉が読めなくても、絵で流れを追えるのもいいですね。
まだまだ使えるリユース品が並んだ部屋も描かれていて、中古品のかわいい箱やアクセサリー、絵画などを見ながら「リサイクルは宝物探しみたい!」とヴェガが目を輝かせるシーンもあるのですが、スウェーデンの町の至るところで見かけるリサイクルショップを思い出しました。
缶やプラスチックなど自然に還らないものを外に捨てると、動物たちが怪我をしたり危険な目にあうこと。リサイクルがスムーズに進むよう、ゴミを捨てる時には洗浄したり分別するのが大切なこと。化学薬品や塗料を廃棄する際には危険のないようにルールがあること。そしてゴミ清掃員やトラックの運転手、ゴミ処理のための施設や機械を作る技術者がいなければ、ゴミはリサイクルされないまま放置されるほかないこともヴェガは学びます。要所要所に挟まれるフレッデさんの解説は、同じくゴミ清掃員として働きながら発信しているマシンガンズの滝沢さんを彷彿とさせ、大人にとっても読み応え十分の内容です。
「このシリーズで、下水道の仕組みを紹介している絵本もあるんですよ。」とカロリーネさん。ゴミや下水といったテーマも、このポップな絵柄で描いてあると引き込まれてしまいますね。
今年のクリスマスは、地球がよりよい場所になるための一冊を選んでギフトにしてみるのはいかがでしょうか?先に紹介した『小さなひとりの大きなゆめ』シリーズは、日本でも数冊、ほるぷ出版から発売されています。グレタさんバージョンはまだですが、いつか日本語版もできるといいですね!
ご紹介した2冊とともに、今回 BOKBOK で購入したのは、エルサ・ベスコフの名作『ちいさなちいさなおばあちゃん』。なんとスウェーデンで100年以上も前から読まれている絵本なんです。ちいさな家で暮らすちいさなおばあちゃんのお話には、いたずら者のちいさなねこも登場し……見つかって、怒られているところ。のどかな風景と、ねこの不敵な顔つきがたまらない一冊です。
それではみなさま、ゴーユール(スウェーデン語で、よいクリスマスを)!
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