暮らしや環境のこと。人が集まる場にヒントがある!みんなが自由な時間を過ごせるコミュニティパーク「coconova」とは?
「エコフレンドリーで、エシカルで、サステナブルな事業」を展開するさまざまな企業が、自社の技術やサービスを発表する「HAPPY EARTH STARTUP PITCH」が2022年9月に沖縄県で開催されました。
このイベントで、「カボニュー賞」を受賞したのが、株式会社Social Design(ソーシャル・デザイン)のコミュニティパーク「coconova (ココノバ)」。Social Designさんが取り組んでいる地域コモンズ※の姿が、まさにカボニューが目指している「誰もが気軽に集える“公園”を作りたい」という想いと重なったことが、受賞理由のひとつです。
今回は、「coconova」を立ち上げることになった背景や、Social Designさんが行っているサステナブルな取り組みなどを、代表の北野勇樹さんと、同じく代表で建築家でもある加納佑樹さんにお伺いします。
※地域コモンズとは、その地域に住む人々にとって必要なもの・空間を、その地域住民で管理し利用する仕組みのこと。
世界一周の旅で経験した「助け合う暮らし」が原点
――北野さん
大学を卒業した後、世界一周の旅に出たんです、貧乏バックパッカーでしたけど(笑)。行く場所ごとに、1人で来た自分を受け入れてくれるコミュニティみたいな場所があり、温かく迎えてくれる人たちがいたんですよね。その人たちと、自分が持っているスキルや得意なことをシェアして、苦手なところを補い合うような生活をしているうちに、「自分が持っているものをシェアしながら生きていくことは、幸せなことかもしれない」と思い始めました。
国境を超えて、言葉を超えて、さまざまな人と一緒に活動していたその時の暮らしが、現在、運営しているコミュニティパーク「coconova」の原点だと思います。
未来への期待を感じる街で、自分も何かの役に立ちたい
――北野さん
以前は東京で仕事をしていましたが、コロナ禍で仕事をフルリモートに切り替えました。当時、僕は車でいろんな場所に行くようなバンライフを送っていたこともあり、名護市に住んでいた古くからの友人にフラッと会いに行ったんです。そしたら、名護市があまりにも居心地良すぎて、2泊3日の旅行のつもりが2週間、3週間と延びていって、そのまま車と家を手に入れ、住み着いてしまいました(笑)。会社も自分の家の住所も名護に移して、永住するつもりでいます。
人が温かく、子どもが多く、住んでいる人が自分たちの街の未来に期待している。世界一周の旅の中で、居心地が良いなと感じて長期滞在した街と同じ雰囲気を、名護市にも感じました。街の人たちが未来に向かっていこうとする波に僕も相乗りしたい、ビジネスを通して役に立ちたい、そう思ったんです。
そのときに見つけたのが、もともと診療所だった「coconova」の建物です。東京にいたころ、レジデンスやシェアハウス、コワーキングスペース、カフェ、イベントスペースなどの機能を併せ持ったシェアリング型滞在施設の企画・設計を進めていたのですが、コロナ禍を理由に断念したことがあり…。名護市でこの物件を見つけたときに、「ここなら、住む機能以外のことは全部、実現できるかもしれない」と思い、プロジェクトをスタートさせました。
――加納さん
初めて建物を見たときは「大きいな」と思いました(笑)
地価の安いエリアで、工場や何かの跡地をコンバージョンし新しい空間をつくる、という事例が世界でもたくさんある中で、最近の東京では万が一にもそういった物件を見つけられることはなくて。でも、この建物を見たときに、名護市の中でこれくらい大きな地積を持って「公共の場」となれるような空間って他に無いんじゃないかと思い、これはチャンスなのではと思いました。すごく大きなポテンシャルを有しているなと。建物を見て、割と最初の方に「公園」みたいなキーワードが頭に浮かびました。
遊びに仕事におしゃべり…それぞれが過ごす自由な時間
――北野さん
「coconova」は日によって、いろいろな顔があります。人が少ないときはゆっくり過ごせるし、たくさんいるときはいろんな繋がりができたり、卓球やビリヤードで遊んだりして、ワイワイ過ごせます。ワークショップを開いている人もいるし、物を販売している人もいるし、朝から幼稚園のバスが来て、30人ぐらいの園児が遊んでいることもあります(笑)。地元のおじいちゃん、おばあちゃんが飲み物を飲みながら、ゆっくりおしゃべりする姿も見られます。
建物地下のコワーキングスペースに入居しているスタートアップのメンバーの中には、休憩がてらカフェで食事をして、ちょっとおしゃべりして、また仕事に戻って、というような使い方をする人も。入居している企業の中には、ここでの交流がきっかけで生まれたスタートアップもあります。Social Designから彼らに仕事を発注することもあり、エコシステムができあがりつつありますね。みんなが日々のルーティンを楽しく過ごせる場になっているかなと思います。
「みんなの場所」を目指して、追求する居心地の良さ
――加納さん
リノベーション作業は手始めに、天井などいらない部分を全部解体しました。がらんどうのスペースでフリーマーケットをやってみて。その中で「こういう使い方もできるね」ということをみんなで話し合いながら、1つずつ必要な家具を作っていくようなプロセスで進めていきました。
電気やガス、水道などのプロフェッショナルな仕事は地域の業者さんに工事をしてもらいましたが、家具の製作は私たちのほかにも、犬の散歩で毎日建物の前を通る人や子どもたち、たまたま名護を訪れた旅人など、いろんな人々が関わってくれました。未完成の段階から地域の人に開放していて、「この空間、これからどうなるんだろう」みたいな会話が自然に生まれたこともよかったなと。オープン前も後も変わらず、「誰でも場所作りに参加できる」ということを意識しています。
「coconova」をみんなの場所にしていきたいという思いがあったので、たとえば家具は、本棚を可動式にしたり、コンクリートで作ったカウンターには琉球ガラスの廃材を使用したり、手触りも含めてみんなが好きになれるようなものにすることを心がけました。
居心地の良さを感じてもらえるよう、工夫したのは家具だけでなく、「人との距離感」も。建物の至るところに可動式の家具が散らばっていて、高いのがあったり低いのがあったり、距離的に遠いのがあったり近いのがあったり。いろんな空間が「coconova」の中に散りばめられているので、自分たちが話しやすい場所が自然に作られていて、つながっているんだけどちょっと離れているみたいな「居心地の良さ」につながっているのだと思います。
地球を汚していたら幸せじゃない。物を循環させて「温かみ」も受け継ぐ
――加納さん
建設に関わる廃材のアップサイクルはできるだけ推進したいですね。天井を剥がした際に出た木材は全部、家具に置き換えて、早い段階で使い切りました。
建物の中をリノベーションする際に、使っていた材料を可能な限り次の用途に置き換えることは、今後もやっていくべきだと考えています。高級な素材を使わなくても、その場所にある物の組み合わせを工夫することで、シンプルだけど心地よい空間、ぬけ感のある空間を作ることができるんですよね。
「coconova」では建築工事の現場で足場などに使う単管パイプと、コンクリートの型枠工事の時に使うコンクリートパネルを使いました。沖縄はコンクリート造の建物が多いので、入手しやすいという特徴があって。地域でよく使われている素材や解体工事の時に出た廃材を使って空間を作っているので、そこが利用者に「温かみ」を感じてもらえるポイントになっているのかもしれません。
――北野さん
沖縄自体が元々自然豊かなところなので、その自然を守りたいという思いもあります。たとえ商売がうまくいっても、地球を汚していたら、幸せではないじゃないですか。建物内で運営しているカフェ「sōen」でも、カップとお皿はバガス(サトウキビを圧縮した後に出る絞りカス)でできたものを使うようにしています。
みんなが手に取れるように並べている本も、利用者の方などから寄付していただいたものです。coconovaから生まれた事業の一つである、本を交換する人同士がつながれる「思い出書店」というスペースを設けているので、その取り組みを続ける中で、いろんな人が本を送ってくれたり、持ってきてくれたりして集まりました。中には、著者の方が直接、自分の本を持ってきてくれることも。ここでも、本と一緒に持ち主の想いが循環されていると思います。
暮らしや街の未来、環境のこと。ありのままに話し合える“場”でありたい
――北野さん
Social Designは現在、人々が集まるコミュニティパーク「coconova」の運営と、沖縄県石垣市の地域循環型ホテル「MEGURU | 巡」の運営を、事業の二本柱にしています。宿泊施設である「MEGURU」では、お客さんの宿泊時にほとんどゴミが出ない、出たとしても自然に還るものをセレクトしていて、「coconova」以上にエシカルな運営方法をとっています。
今後は「coconova」周辺の中古物件などをリノベーションして、中長期滞在可能なキッチン付きの宿泊施設を整備したいと考えています。それが実現できれば、いろいろな土地を旅するように移動する、かつての僕のような“越境者”が気軽に「coconova」に立ち寄ることができます。“越境者”がたくさん来ると、流動性や循環、さらにはワクワクが生まれ、地域は活性化していきます。「越境」と「ローカル」という、一見相反しそうな概念を「coconova」なら両立させられると思っています。
産業の観点では、「coconova」は、新しいビジネスを始める際のインキュベーションの役割も果たせているかと思います。スモールビジネスのやり方を教え合ったり、ITのスキルを身に着けて副業で稼げるようになったり、「coconova」の利用者同士で協業先を見つけたり、販路の拡大につながったり。そんな風に、みんながやりたいことを応援する場であり続けたいです。
暮らしの観点では、みんながありのままでいられる場所でありたいと思っています。いい人が集まれば、いいことが起こるだろうと思っていて。街をこんなふうに変えたいという意見が集まれば、ここを起点に変えていくこともできるだろうなと期待を持っています。
運営面で環境に配慮した取り組みはやっていますが、僕たちはその道のプロではありません。バガスや廃材を使っていると、すごく詳しい方がやってきて、セミナーを開いて、教えてくれたこともありました。廃材をたくさん使っているからか、サステナブルを意識したイベントのスペースとして利用してもらえることも多いです。そうやって、「coconova」が暮らしや未来、環境のことを考えるきっかけの場になればうれしいですね。
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北野さん、加納さん、ありがとうございました!
暮らしや未来、環境のこと。1人で考えると堂々巡りになって、答えが出しにくいことも、同じ場を共有する人たちとの繋がりや交流、議論を通して、自分にとって最適なヒントを得られるかもしれない。お二人の話をお伺いして、そう感じました。
環境や未来のために何ができるか。迷ったら、家を出て、仲間がいる「場」で話し合ってみてはいかがでしょうか。