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地域に眠る資源から生まれるサステナブルなコスメづくり―ボタニカルファクトリー 黒木靖之さん【Think Global, Act Local 最終回】

「Think Global, Act Local」をキーワードに、“ローカル=地域”を拠点としてグローバルな視点で環境問題に取り組む人を紹介するこの企画。これまで林業に関わる山崎さんや、漁業に関わる尻池さんなど数々の人を取り上げてきました。

最終回となる今回ご紹介するのは、鹿児島県南大隅町で地域密着型のナチュラルコスメを製造している、ボタニカルファクトリーの黒木靖之さん。

黒木さんは、三重・桑名と東京・渋谷の学生がカボニュー学生アンバサダーとなって放置竹林の問題について学び、考え、体験するプロジェクトで、竹を使った化粧品の開発を監修してくださっています。(学生アンバサダーの連載はこちら

私たちがいつも身に着けるコスメづくりを通して、環境問題を考えるきっかけが意外と身近にあることを感じていただきたいという思いから、最終回は黒木さんにお話をお伺いしました。

農業とコスメを近い関係に

ーー黒木さん
1997年から化粧品の企画、開発、輸入の仕事をしていますが、当初は「塗ったら痩せる」とか「塗ったら産毛がなくなる」といった、今とは全く違った化粧品の企画をやっていました。
 
ナチュラルコスメを作るきっかけになったのは2003年の頃です。その年に、第一子の娘が生まれたのですが、アトピー性の皮膚炎になりました。これまでスキンケアの仕事をしてきたのに、何をしても皮膚トラブルが改善しないことにショックを受けましたね。
 
ちょうどその時期に、ヨーロッパのオーガニックコスメの工場を見る機会があって。そこには、ラベンダー、カモミールなどのハーブ畑の横にエキス抽出施設、化粧品工場、さらにはクリニックも併設されていました。農業とコスメがこんなに近い関係だということに衝撃を受けたんです。
 
その頃から自分の地元、鹿児島で将来こんなコスメづくりをしたいと思いはじめるようになりました。2010年ごろ、ご縁があって地元の使われなくなった温泉施設を借りて、石鹸工場を作ることに。​​

2016年には、南大隅町にある小学校の統廃合により、廃校になる登尾小学校を有効活用して、ボタニカルファクトリーを設立しました。自社商品のボタニカノンというブランドの製造販売と、OEM(他社ブランドの製品製造)の製造受託をしています。
 
南大隅町がある大隅半島は、ちょうど温帯気候と亜熱帯気候の境目で、約4,000種類の植物が群生しているというとても稀有な場所。江戸時代には、島津藩の藩主が作った薬草園があったと聞いています。
20年近く前にヨーロッパで見た農業とコスメの関り方が、ここでなら作れるのではと思ったんです。

廃校を利用した工場の玄関
工場の屋上

人や地球にとってハッピーなコスメづくり

ーー黒木さん
コスメを作る上で大切にしていることが3つあります。
 
1つ目は、大量生産をしないということです。
化粧品業界の最大の悪は、“作り過ぎ”ということです。大きな流通の中で売上市場主義に走ってしまうと、機会損失を恐れるあまり大量に作って、その多くを廃棄している現実があります。お客様との関係のなかで一概には難しいかもしれませんが、欠品しても少し待ってもらうという関係を作っていくのが良いと思います。

廃校の教室を再利用した、工場内の風景

2つ目は、コスメの原材料へのこだわりです。
排水汚染から海を守るためにも合成の石油由来の成分は使いません。
食べるものと肌につけるものは、基本的に同じようなものでないといけないという、自分の化粧品作りに対するポリシーがあります。化粧品は肌から経皮吸収されるので、できる限り口に入れても大丈夫なものにしようということをコンセプトにおいています。
 
普段コスメを買う時には、必ず成分表を見る癖をつけてほしいと思います。わからなくてもいいから目を通してほしい。そうすると良い成分のパターンがだんだんわかってきます。
 
あとは、地元の素材を使うことにも特にこだわっています。
ボタニカノンは、全ての商品に鹿児島の原料が入っています。特にフォーカスしているのは、廃棄されてしまう農産物などです。

例えば、パッションフルーツは南大隅町で年間に20トンくらい生産されているのですが、ちょっと色がおかしいとか、ちょっとシワが入っているといった理由で、そのうち10〜15%くらいは廃棄されてしまうんです。そういった、捨てられてしまうようなパッションフルーツは、全部買い取ってコスメの原料として活用しています。

タンカンとパッションフルーツ

3つ目は、地元の方と一緒に作っていくことを大切にしています。
人材確保のため、子育てしながら働ける環境づくりや、アクティブシニアの再雇用、地域にある社会福祉法人白鳩会と連携してハンディキャップを持った人にコスメづくりに携わっていただくなど、さまざまな取り組みを行っています。
 
できるだけ地元のものを地元の人の手によってセンスよく作り上げて、東京や海外といった場所で販売していく。いい意味でレバレッジを効かせる(少額の投資資金で、大きなリターンを得る)ことを大切にしています。
 
もちろん、コスメの製造において、労働生産性を上げることより、作っている人が楽しんで作る「幸福生産性」を高めることも大切です。
同じ化粧品を作るにしても、大自然の中でウキウキ楽しみながら作る方が、もしかしたら商品に何か違うエネルギーが宿るんじゃないかと思うんです。

コスメづくりを通して地域の素材を身近に感じる

現在、桑名と渋谷の学生と竹を活用した化粧品開発に取り組んでいます。竹という日本古来の素材に目を向けて、コスメを通して環境問題を身近に感じることができるいい機会だと思いますね。
 
ヨーロッパの方では、日本の和ハーブを活かしたナチュラルコスメが注目されています。
日本には、北から南まで、地方に埋もれている素材がたくさんあります。これらをコスメに変えて、付加価値をつけていきたいですよね。
 
今回の取り組みでは、学生の皆さん自身で整備した竹からコスメができることを体験したことで、多くの気づきがあったのではないでしょうか。
「コスメって自分で作れるんだ」ということに、気づいてもらえたらうれしいですね。

竹を活用した化粧品開発に取り組んでいる、桑名と渋谷の学生アンバサダーのみなさん

個人的には、親が子どものために味噌汁を作るように、自分たちでコスメを作るような文化が広がっていくと良いなと思います。
 
化粧水とか、石鹸とか簡単なものはできるだけ自分で作ってみるということですね。実際にやってみたらとても簡単なので、そういった習慣をつけてみてほしいです。
 
***
黒木さん、ありがとうございました。
 
これまで「Think Global, Act Local」では、地域で活動をしている7人の方にお話をお聞きしました。みなさんに共通しているのは、現代社会の中で目の前の成長を求めているのではなく、個人個人が豊かな人生を送りながら、地域のみんなで豊かな世界を作り上げていきたいという思いを持っていること。
 
カボニューは、「私と地球にいいことが見つかる場所」です。カボニューに集まってきた人たちにとって、この連載が「広い視野で環境のことを考えながら、まずは⾜元から⾏動する」きっかけになったらと思います。

株式会社ボタニカルファクトリー
代表取締役 黒木靖之さん

1997年から化粧品の企画、開発、輸入に携わり約1,000アイテムを超える開発に携わる。娘のアトピーをきっかけに「肌に良く、口に入れても安心な化粧品成分について学びたい」と、2006年より地元鹿児島県南大隅町に戻り石鹸製造をスタート。2016年に大自然が育む豊かな植物が、肌のために新たに生まれ変わる場所として、ボタニカルファクトリーのブランド「ボタニカノン」を作る。

ボタニカルファクトリー https://botanical.co.jp/
ボタニカノン https://botanicanon.com/


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