【スローに歩く、北欧の旅#11】壮大な自然を背景に、アイスランドが向き合う環境問題を描く
みなさん、こんにちは。ライターの森百合子です。カボニューにつながる、北欧での体験を紹介するこの連載。今回は環境問題をテーマにした北欧映画をご紹介しようと思います。アイスランドを舞台にした作品で、旅気分も味わえる一本です!
「ハリウッドからも注目された話題作」
ご紹介するのは、気鋭の監督ベネディクト・エルリングソンによるアイスランド映画『たちあがる女』。
2018年に製作された本作は、北欧5カ国の映画からもっとも優れた作品を選ぶノルディック映画賞を受賞。カンヌ国際映画祭の国際批評家週間で上映され、SACD賞を獲得しています。また本選ノミネートは逃しましたが、アカデミー賞のアイスランド代表作品にも選出され、本作に惚れ込んだジョディ・フォスターが主演・監督でリメイク権を獲得したという話題作です。
「アイスランドが抱える環境問題を切り取る」
地熱活動により熱水が吹き出す間欠泉や、大地の裂け目を見ることのできる世界遺産の国立公園、ヨーロッパ最大の氷河など、数々の映画の撮影地にもなった絶景や大自然で知られるアイスランド。観光大国のイメージが強いですが、じつはこの国の経済を支える重要な収入源のひとつがアルミニウム精錬工場によるもの。
アイスランドでは、電力の100%が地熱や水力などクリーンエネルギーでまかなわれています。そう聞くと環境問題とは縁遠いように思えますが、電力が安いゆえに、電力を大量に消費するアルミニウム工場の建設を国が誘致しているという背景があります。そして新たな発電所を作るために環境が破壊されてしまう……そうしたこの国ならでは環境問題を抱えているのです。
主人公の活動家ハットラが立ち向かうのは、まさにそのアルミニウム工場と国。環境を守ろうとする強い信念のもと手段も厭わない姿は、日本での公開当時「まるでナウシカのよう!」とも評されました。任務遂行力の高さに私はゴルゴ13のようだとも感じましたし、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリの姿ともどこか重なります。
彼女が立ち向かうのは「豊かな暮らし」を享受する国民でもあります。圧倒的な自然の美しさやスリリングな展開に目が離せなくなるとともに、果たしてどんな結末が望ましいのか……これはアイスランドだけでなく、私たちが直面している問題なのだと気づかされます。
「アイスランドならではの自然や人間関係を画と音で感じる」
カラフルな壁色の建物が並ぶ首都レイキャビクの可愛い町並みや、ハットラが守ろうとするアイスランドの大自然を、画面を通じて体感できるのも本作の魅力。火山と氷河という両極の自然を擁する「火と氷の国」ならではの自然や、アイスランドの暮らしにかかせないひつじ達の存在は物語の鍵となり、思いがけない方法でハットラの闘いに関わってきます。また「友達の友達はみな知り合い」といった感じのある人間関係など、人口わずか33万人の国らしい描写も織り込まれています。
劇中に流れる音楽も個性的で、坂本龍一氏やピーター・バラカン氏も絶賛コメントを寄せていた本作。ウクライナの民族衣装に身を包み、ハットラの応援団のように歌う3人の女性やバンドの存在など独創的な音楽の使い方にも驚かされますよ!
映画『たちあがる女』は、DVDや各種配信サイトで見ることができます。ぜひ映画を通じてアイスランドのいまを旅してみてください。
アイスランドの首都レイキャビクは猫の町としても知られ、町を歩いていると、あちこちで気さくな猫さんに遭遇します。すりすりと寄ってきてくれる子も。それでは、bless!(アイスランド語でまたね!)
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