【スローに歩く、北欧の旅#13】デンマーク発、大ヒットドラマが扱う環境問題
みなさん、こんにちは。ライターの森百合子です。カボニューにつながる、北欧での体験を紹介するこの連載。今回はデンマーク国営局による政治ドラマ『BORGEN』についてご紹介します。
現実に先駆けて女性首相が誕生
社会問題を切り取る良質な映画やドラマが次々と生まれている北欧。なかでも、デンマーク国営局による政治ドラマ『BORGEN(邦題はコペンハーゲン)』は本国をはじめ世界各国で大ヒットとなった話題作。現在はネットフリックスで配信中で日本でもファンの多い作品です。
2010年から放送されたシーズン1『コペンハーゲン/首相の決断』では、小さな政党の党首だった主人公ビアギッテが与党のスキャンダルを契機に、連立政権のもと同国初の女性首相となるところから物語がスタート。組閣、予算案の通過と政権発足から問題が山積みとなるなか、他政党、閣僚、官僚、メディアを相手に駆け引きをしながらリーダーとして国をひっぱっていきます。
ちなみにタイトルの『BORGEN』とはコペンハーゲンの中心部にある宮殿、クリスチャンスボー城のニックネーム。ここには国会議事堂や首相官邸、最高裁判所など国の中枢機能が集まっています。デンマークの政治やメディアの本拠地をはじめ、さまざまな背景をもつ登場人物が暮らす家など、観光では見られない一面をのぞけるのも本作の魅力なのです。
シーズン2&3では軍事や外交問題から社会福祉、少年法、移民・難民政策、セックスワーク規制などいままさに世界の国々が向き合う問題が描かれ、デンマークの政治と国民がそうした問題にどのように対応していくかが見どころ。本作ではジェンダー平等のあり方についても繰り返し描かれていますが、実際にドラマ放映後、2011年の総選挙では中道左派の野党陣営が勝利して政権交代が実現し、デンマーク初の女性首相が誕生しました。
最新作では環境問題がテーマに
そして2022年には待望の新作、シリーズ4が放送されました。既に首相の座から退いたビアギッテは、新しい女性首相のもとで外相として活躍。物語は、デンマークに属する自治区のグリーンランドで油田が見つかるところから始まります。石油による利益でグリーンランドの独立を叶えたい人々、グリーンランドを軍事的拠点にしたいアメリカ、さらには中国やロシアの思惑も絡んでサスペンスのような展開も見せる新シーズン。ヨーロッパが石油依存から本格的に脱却しようとしている現実とも重なって、果たしてどうやって物語が決着していくのか、目が離せません。
シーズン1ではまだ幼かったビアギッテの息子マグヌスが成長し、理想のもとに過激な環境活動グループの一員となって母とすれ違っていく展開も今のデンマークを反映しているかのよう。ちなみに2019年の現実の総選挙では気候変動対策が大きな争点のひとつとなり、政権交代が実現しています。デンマークの人々にとって環境や気候対策はすでに誰もが危機感を持って考えるべきこと。その一方で世代による考え方のずれも生じていることをドラマを通してうかがい知ることができます。
理想だけではない現実社会を映す
北欧の国といえば男女平等や人権問題、環境問題について日本よりずっと先を歩んでいるように思えますが、実際にはさまざまな意見があり、道のりは簡単ではないことを思い知らされるのが本ドラマの面白いところ。信念と現実の折り合いをつけながら交渉していくビアギッテもいつも格好いい主人公ではなく、信念を捻じ曲げてでも自分の立場を守ろうとしたり、うっかりハラスメントをしてしまったり、権力に目がくらむ一面も。他にもリベラルと思われる登場人物たちが見せる差別意識なども容赦なく描かれています。
それでもやはり当たり前のように女性閣僚がずらりと並ぶ政権や、政治家のスキャンダルをしっかりと追求し国民に報じようとするメディアの姿は羨ましく思えますし、ビアギッテをはじめ政治家たちが自らの言葉で政策を語り、市民と対話しようとするシーンを見ていると、デンマークの投票率の高さにも納得がいきます。政治や北欧事情に詳しくなくてもぐいぐい引き込まれること必至の本作。日本とのあまりの違いぶりに観終えて悶々としてしまうことも少なくないのですが、政治家たちの駆け引きとともに、国民の声が政治を変化させていく展開にはやはり胸が熱くなります。ぜひこの面白さを実際に感じてみてください!
「おなかすいたから、ごはんちょうだいよ!」よその家なのに、しっかりと声をあげるたくましさ。それでは、ヴィシース(デンマーク語でまたね!)
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