優しい人どうしが優しい気持ちでつながれる、ビーチクリーンの新しい形「プロジェクトマナティ」-topics-
海洋ごみの漂着が増え続け、沖縄でもゴミひとつない美しいビーチは当たり前のものではなくなっています。
「プロジェクトマナティ」は、そんな沖縄の漂着ごみ問題に取り組むべく金城由希乃さんが始めた、“優しさでつながる”ビーチクリーンプロジェクトです。
2020年にたった1ヶ所のパートナー拠点から始まったこのプロジェクト。今では、110ヶ所(2023年3月現在)のパートナー拠点で500円を支払うと、誰でもビーチや街でゴミ拾いができるネットワークに成長しています。
ファウンダー(創業者)で代表の金城由希乃さんは、初めて訪れた西表島での実体験からこのプロジェクトを着想しました。
「仕事で訪れた西表島で、夕日を見ようとビーチに立ち寄った際、期待とは裏腹に漂着ゴミがたくさん落ちていて…。
拾いたい!と思ったのですが、拾ったゴミをどこに持っていけばいいのかわからず、それを聞ける人もいなくて。時間もモチベーションもあるのに何もできないことが歯がゆかったんです」
もしそこで、拾ったゴミの処理方法や海のことを聞ける人に出会えていたら、ゴミが減るだけでなく、旅先で地元の人とふれあう思い出もできたはず。そう考えた金城さんは、『マナティ』の仕組みを考えつきます。
「ゴミ箱があればよかったけれど、設置や回収して処理するにもお金がかかります。自分ならいくら出せるだろうと考えた時に、1000円は出せなくても500円だったらって思ったんです。コーヒー1杯分くらいの金額なら、きれいな海のために払ってくれる人はいるんじゃないかと考えました」
マナティのパートナー拠点では、地域のパートナーに500円を払うことで、オリジナルのバッグでごみ拾いができます。拾ったごみは地域のパートナーが市町村のルールに則って処理。これにより、「きれいな海を守りたい」という優しい気持ちを持つ人同士が出会い、共感し合える仕組みです。
「沖縄の各地で呼びかけてみたら、『地域の役に立てて、沖縄の外から来てくれる人のためにもなるなら』と、パートナーに手を挙げてくれる人が次々と現れました。
決して儲かるような話じゃないんです。そのうえ、ごみ処理を担う行政と調整したり、実際にごみを処理するには手間がかかったりして大変なのに。もう感動してしまって…。
こんな素敵なハートを持った地元の人たちと出会えることは、沖縄の外から訪れる人々にとっても、かけがえのない価値になると確信しました」
例えば久米島では、ある女性が「ビーチクリーンをみんなでできる仕組みがないか」と調べてマナティに辿り着き、今では19ヶ所もパートナー拠点ができているそう。
美しい海への思いを同じように抱く人たちが、共感し合い輪が広がることで、今では沖縄本島最北端から最南端の波照間島まで110ヶ所で「ありがとう」の交換が起きています。
沖縄市コザ出身の金城さんにとって、海は幼い頃から身近な存在だったわけではありません。大学生になって初めて潜った海が金城さんを変えたそうです。
「県外出身の同級生が『ダイビングで体育の単位が取れるし、一緒に行こうよ』と誘ってくれたんです。それで海に潜ってみたらその美しさに惚れ込んでしまって。それから『海がきれい』と言われるたび、自分が褒められているような気持ちになり、沖縄の海が自分のアイデンティティみたいになっていったんです」
しかし、8年ほど沖縄を離れ、戻って潜った海の景色は、金城さんが惚れ込んだときとは別の姿になっていたそう。それが悲しくて、しばらくは海から遠ざかっていたという金城さん。
「文句が口をついて出てしまうのが嫌で、海に行かなくなりました。そんなある日、たまたま訪れた座間味島で、久しぶりに泳ごうと日焼け止めを塗っていたら、居合わせた人に『珊瑚が死んじゃうよ』って言われて…。頭をガツンと殴られたような衝撃を受けました。それがきっかけで『珊瑚に優しい日焼け止め』をつくり始めました。商品を通し、沖縄から『きれいな海を守ろう』というメッセージを届けられるんじゃないかと考えたんです」
金城さんにとって沖縄の海は単純に「好きな場所」というものではなく、「当たり前に守らなきゃいけないもの」。
海や珊瑚がきれいだからと訪れているのに、平気で珊瑚を踏んでバキバキと折りながら海に入っていく人がいるような現状に対して、「みんなで海を守ることが当たり前になる優しくて温かい世界をつくりたい」と、金城さんは願っています。
20代の頃はパーティプロモーターに熱中していたという金城さん。
「パーティプロモーターの仕事では、『今日を楽しみたい』というピュアな気持ちを持って人々が集まり、学歴も職業も関係ない美しい世界やシーンをみんなでつくれる、そんな場を提供していました。それがすごく好きで。そのときの成功体験があるから、マナティをやっているのかもしれません」
「美しい世界やシーンをみんなでつくる」ことを大切に。その一方でパーティのような一過性のイベントではなく、ずっと続けられることを前提とした仕組みを設計しています。
「大切にしているのは、事務局にゴミ拾いをしたいと問い合わせがあったときに、私たちが動くのではなく、主体的に『パートナーをやりたい』と手を挙げてくださる地域の人にアクションしてもらうこと。マナティは、地域の人たちとのコラボレーションで育っていくプロジェクトですから」
金城さんが掲げるマナティの旗のもとに集まっている沖縄各地のパートナー拠点は公式サイトやInstagramから探せます。また、パートナーをやりたい地域の方々も常時大歓迎とのこと。ごみ拾いのルール設定や市町村との調整などについて、事務局と話し合い面接を経て活動が始まります。
地域の人とつながり、いつでも気軽にビーチクリーンができるプロジェクトマナティ。興味のある方はぜひ参加してみてくださいね。