3.5%の夜明け|四角大輔 連載#02「できること」
「人間の活動が、地球温暖化を引き起こしてきたことは疑う余地なし」
2015年のパリ協定以来、2023年3月に9年ぶりに更新された「国連IPCC統合報告書」が遂に、こう結論づけた。国連のグテーレス事務総長は「気候変動の時限爆弾の時計は刻々と進んでいる」と発言。
「現在の対策では、人が暮らせないレベルまで悪化する/脱炭素プランを強化しないと、全人類の半数近くが移住を余儀なくされる」
その前に発表されていた先行レポートは、こうも断言している。
世界中の優秀な学者が長年かけて、膨大なデータ検証と議論を重ねて作成した研究結果が示す、「多発する自然災害の原因が気候変動にあり、その原因は人類にある」という科学的根拠には、もはや誰も反論できなくなった。
さて――宇宙人の攻撃ならぬ、人間みずから自分を攻撃してしまっているという――この危機的な状況において、ぼくらはどうすればいいのか。前回のテーマは「ひとりの力」だったが、今回は「できること」について書いてみたい。
その話の導入として、ニュージーランドの湖畔の森で生活をしている、我が家の近況報告をしたい。
2歳になる息子がこの4月から保育園に通いはじめた。
そこは、ニュージーランド先住民のマオリの「自然とともに生きる文化」をベースにし、シュタイナー教育やモンテッソーリ教育をハイブリッドさせた方針を掲げている。
▶︎シュタイナー教育
https://waldorf.jp/education/
▶︎モンテッソーリ教育
https://benesse.jp/kosodate/201705/20170530-1.html
敷地には一軒家があり、そのまわりをオーガニック栽培の菜園と果樹園、広場と小さな林が取り囲む。
屋内には、色の着いていない木のおもちゃと、絵本が少しあるが、屋外に遊具はない。寒波や悪天候のとき以外は基本、子どもと先生は外で過ごす。子どもたちは外で遊びながら、庭のフルーツや野菜をむしゃむしゃかじり、足元では放し飼いのニワトリが幸せそうに地面の虫を食べている。
日本で話題となり、ぼくも数年前にデンマークで視察したことのある「森の幼稚園」のようだ。
林でかくれんぼをし、木に登り、枝につけられたロープにぶら下がり、広場を自転車で駆けまわり、どろんこになって遊ぶ。食事も外だし、そのまま木陰にマットを敷いてお昼寝をする。
朝のティータイム、ランチ、午後のティータイムでは、敷地内の収穫物や、オーガニック食材を使ったビーガン食が提供される。ぼくは肉を食べず、食事の半分近くがビーガンということもあり、保育園の食へのこだわりも決め手となった。
「ゼロウェイスト」を掲げているだけあって、残飯はコンポストやニワトリのエサになる。食べ残しをニワトリにあげる子どもたちの優しさが愛おしく、あたたかい気持ちになる。
そしてここでは、環境負荷が高いゴミとなる紙オムツではなく、リユースできる布オムツを使う――ちなみに、市販の紙オムツは「紙製」ではなく石油由来の「プラ製品」ということはご存知だろうか。
そんな保育園の本棚でこんな本を見つけた。
『CHANGE starts with us』という、オーストラリアの作家によるポップな絵本。
この本には、「節水や節電」「リサイクルとリユース」梱包の少ない商品を選ぶこと」「車の使用や肉を食べる量を減らす提案」などが、カラフルなイラストで描かれている。
「自分たちでできる小さなACTIONが、自分たちの地球を守るための大きなCHANGEにつながる」ことを、幼児でもわかるように楽しく教えてくれる。
<絵本作家@sophiebeerdrawsさんのInstagramより>
まず、日々の暮らしで自分にもできることをやってみるだけで、アンテナを張れるようになる。すると、カラーバス効果で、そういう情報が次々と目に入るようになり、「チーム3.5%(*)」の仲間を見つけられるようになるからおもしろい。
▶︎カラーバス効果
ある特定のことを意識し始めると、日常の中でそれに関連した情報が自然と飛び込んでくる心理効果
マイボトルを持ち歩けば、街には想像以上に使っている人が多いことに気づき、「チーム3.5%」のメンバーは自分だけじゃないと小さな勇気をもらえる。「あのマイボトルどこのだろ?かわいいな」とつい見ていると、眼が合ってお互いニコっということも時々ある。
たとえば、あなたはカフェでは――牛乳は環境負荷が大きくて動物愛護の観点からも避けようと――いつも「ソイ(豆乳)ラテ」を飲んでいるとしよう。
すると、前のお客さんの「オーツミルク・ラテください」という小さな声が聞こえてくる(カラーバス効果!)。
「アーモンドミルクやソイミルクより、オーツミルクの方が環境負荷が小さいと聞いたことがあり…気になってたんです!」と、小さな勇気をだして声をかけてみる。
すると、「環境や動物にやさしいだけじゃなく、ラテに一番合うからおすすめだよ」と教えてくれるかもしれない。それがきっかけで、「チーム3.5%」フレンドになれるかもしれない。
ちなみに、世界で移動生活を送っていた頃のぼくは、旅先では真っ先に「オーガニックショップ」や「フェアトレードショップ」へ足を運んでいた。
そこで働く店員さんは間違いなく「チーム3.5%」だから、すぐに仲良くなれる。地域のオススメを聞いてみると、かなりの確率でおいしいゼロウェイスト・レストランやビーガンカフェなどを教えてもらえる。
飲食店の席に着き「これはうまい!」と思わず声にだすと、隣のテーブルのお客さんがニコっと微笑んでくれる。もちろん「チーム3.5%」の仲間だ。いい循環である。
ひとり旅が多かったぼくだが、そうやって旅先で多くの友人ができた。今でもInstagramを通して情報交換している。
環境への意識が近いと、不思議なことにいろんな好みが似ていることが多々ある。「地球環境と自分たちの生活を守りたい」という、強く大きな共通点があるからか――たまたま一緒だったという共通点しかないクラスメートや会社の同期――よりすぐに分かり合えて、絆が深くなるからいい。
ひとりだと心細く感じるけれど、興味関心が同じで、心地良さを感じる仲間やコミュニティとの出会いがあると、それは大きな励みや力になる。
なにが一番いいかって――「チーム3.5%」内では、人種や性別、宗教や国籍、外見やファッションセンスなどを気にする人がほぼいないという点だ。65ヶ国を旅してきた経験から、そう言い切れる。
「チーム3.5%」の世界観を、わかりやすくたとえるなら――皆がゴミを落とさないよう気をつけながら、笑顔で挨拶を交わす山歩きや――ファンの人たちと一緒にヒットソングを口ずさむ、コンサート会場が近いだろう。
デモに参加したり、選挙に行くのはもちろん大事だけど、生活のなかで意思表示をしたり、日々の消費を「投票行動」にシフトすることも、それに負けないくらい大きな影響力があることを知っておいてほしい。
そうやって意思表示をして小さな行動を続けていると、仲間にどんどん出会えるようになると書いたが、それだけじゃない。「あなただけのアクション」が「誰かの小さな勇気」となり、それが少しずつ輪となって広がっていくようになる。
ここに書いたことを半年間続けてみるだけで、「3.5%」の手応えを必ず感じられるようになる。この法則は絶対だと約束しよう。
だから繰り返し言おう。
あなたも「チーム3.5%」のひとりになってみない?
(*)ハーバード大学の政治学者エリカ・チェノウェスさんが、過去約100年の間に成功した世界323の市民ムーブメントを研究し、そこから「人口の3.5%が、積極的かつ持続的に活動して失敗した市民ムーブメントはない」「その多くが、3.5%よりはるかに少ない人数で成功した」という方程式を割り出した
四角大輔|Daisuke YOSUMI
執筆家/森の生活者 /Greenpeace Japan & 環境省アンバサダー