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【スローに歩く、北欧の旅#43】未来のためのテスト区域で、スウェーデン式コーヒータイムを

みなさん、こんにちは。北欧を旅するライターの森百合子です。カボニューにつながる、北欧のさまざまな試みを紹介するこの連載。今回はサステナブルな町として知られるスウェーデン第二の都市ヨーテボリを舞台に、スウェーデンらしいコーヒータイムが過ごせる場所と、注目のエリアについてご紹介します。


町の象徴、クレーンを眺めながらのフィーカ

最近、日本でもちょくちょく聞かれるようになってきた「フィーカ」という言葉があります。これはスウェーデン語で、コーヒーとともにちょっと甘いものをつまみながら、ひと息つくコーヒー習慣のこと。友人や家族とはもちろん、オフィスでもフィーカをする時間が設けられていて、仕事の手を一旦止めて、コーヒータイムを楽しむのです。

サステナブルな試みや、クリエイターが多く暮らすことで知られるスウェーデン第二の都市ヨーテボリには、フィーカをしたくなるカフェがたくさんあります。北欧といえばデンマークのコペンハーゲンや、ノルウェーのオスロなどバリスタの世界チャンピオンを輩出し、世界的に知られるコーヒーの町がありますが、ヨーテボリもじつは注目のカフェや焙煎所が点在する町なのです。

そのひとつ、モルゴンコーヒーは2018年にできたばかりの新しいロースター。新しいといっても創業者の3人は長くコーヒー業界に携わってきたコーヒーのプロばかり。焙煎の国際大会で好成績を残し、2020年には世界的なコーヒーメディアSPRUDGE(スプラッジ)で「注目すべきロースター」として選出されました。

さて、このモルゴンコーヒーがあるのがちょっとユニークな場所なのです。ヨーテボリはもともと造船業で栄えた都市。モルゴンコーヒーが焙煎所を構えるのは、運河に面したもと造船所の敷地内にある小屋のひとつ。ここではコーヒー豆を販売しているほか、天気が良ければ屋外のベンチに腰掛けてコーヒーを飲むこともできるんです。

左側のグラスに入ったドリンクは、エスプレッソにトニックウォーターをくわえたエスプレッソトニック。近年流行しているメニューで、さっぱりとした味わいが夏場に大人気。

ショップオリジナルのトートバッグにはクレーンが描かれ、お店のロゴやマグカップの色は輸送用コンテナや港から着想を得て作られたもの。この場所ならではのイメージを大事にしたデザインはおみやげにしたくなります。

通常は平日のみのオープンですが、毎月フィーカ・サタデーとよばれるイベントも開催し、ワッフルやドーナツなどコーヒーにあうスイーツも合わせて提供しています。港でクレーンを見ながらのフィーカはヨーテボリならではの体験です。

フードやスイーツも充実のカフェ

2015年にオープンして以来、国内外のメディアで取り上げられている人気のコーヒーショップが、アルケミステン。業界関係者が選ぶ2022年度版スウェディッシュ・ガストロノミー賞では「最高のコーヒ体験」賞で2位にランクインしています。(ちなみにモルゴンコーヒーも8位にランクインしています)。

アルケミステンで提供しているコーヒーは、パートナーであるRituコーヒーロースターの豆。Rituでは焙煎の技術や生豆の買付、品質管理などにまつわるコンサルティングや指導も行っていて、アルケミステンとともにコーヒー業界のレベルアップにも貢献しています。

そしてなんといってもアルケミステンの魅力はケーキやパンなどフィーカにかかせない味が揃っていること。朝食やランチメニューも充実していて、食事はベジタリアン対応もばっちり。広い店内は朝やランチタイムをゆったりと過ごすのにもぴったりです。

造船所から、未来のアイデアを生む場所へ

さて、この2軒のコーヒーショップがある地域に話を移したいと思います。【#33 世界でもっともサステナブルな町、ヨーテボリを再訪!】の記事では、サステナブルな未来のためにこの町が取り組んでいる試みをご紹介しましたが、そうした試みを支えているのがリンドホルメンと呼ばれるウォーターフロントエリアです。モルゴンコーヒーもアルケミステンカフェもこのリンドホルメンにあります。

ヨーテボリの観光スポットといえば、ショップやレストラン、市立美術館などがあるにぎやかなノードスタデン地域や、古い町並みを残す旧市街ハガ地区が挙げられますが、昨今は運河を挟んで北側にあるリンドホルメンにもおしゃれなカフェやバー、レストランが増えているのです。

リンドホルメンをはじめとする運河沿いのウォーターフロントにはかつては造船所が多くあり、港湾都市として栄えるヨーテボリの商業の中心地となっていました。やがて造船業が衰退するにつれ失業者も増え、一時は荒廃した地域となっていたのですが、90年代に入ってヨーテボリ市の主導で再開発が始まります。学校や住居が増え、また市と大学、ビジネスコミュニティが共同運営するサイエンスパークが設立されるなど、産官学が協力できるプラットフォームも生まれました。そして現在は再生可能エネルギーや気候変動に対応するアイデアが実験的に施行されるテスト地域となっているのです。

Photo: Lindholmen Science Park

たとえばヨーテボリを本拠地とする自動車メーカー、ボルボはEV車のためのワイヤレスチャージステーションの実験をこのリンドホルメンでスタートしています。またウォーターフロントが直面する問題として、洪水のシミュレーションができるツールを開発し、どの地域にどの程度の備えや対策が必要かを試算するなど気候変動への対策を進めています。

私はもともとコーヒー目当てで訪れた地域なのですが、ヨーテボリ発の革新的な試みを支えるアイデアがここから生まれていると知って、改めて興味を深めています。昨年2023年に訪れた際には町をあげて、ヨーテボリ400周年を祝うイベントが準備されていたのですが、リンドホルメン地域は「未来につながる町」のひとつとしてスポットが当てられていました。今後もぜひ注目していきたいエリアです。

コーヒーカップと一緒に、窓辺に猫さんがいるのはスウェーデンの首都ストックホルムで訪れた老舗カフェ。昔ながらのカフェでは、ブラックコーヒーはセルフサービスで注ぎ、おかわり自由となっていることが多いのです。ちなみにスウェーデン語で「フィーカしませんか?」は「Ska vi fika?(スカ ヴィ フィーカ?)」と言います。現地の方と交流すると、このフレーズをよく耳にするんですよね!スウェーデンを旅する時には、ぜひフィーカもお楽しみくださいね。

プロフィール  森 百合子(もり ゆりこ) 

北欧5カ国で取材を重ね、ライフスタイルや旅情報を中心に執筆。主な著書に『3日でまわる北欧』(トゥーヴァージンズ)、『北欧ゆるとりっぷ』(主婦の友社)、『いろはに北欧』(学研プラス/地球の歩き方)など。執筆活動に加えてNHK『世界はほしいモノにあふれてる』『趣味どきっ!』などメディア出演や、講演など幅広い活動を通じて北欧の魅力を伝えている。築88年の日本家屋に暮らし、北欧デザインを取り入れたリノベーションや暮らしのアイデアも実践中。 
HP:https://hokuobook.com
Instagram:@allgodschillun

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