仲間と共に!ウミガメと、ウミガメが生きられる豊かな海を守り続ける -topics-
透き通った大海原を悠々と泳ぐウミガメや、海に向かって力いっぱい歩く産まれたての子亀の姿は、私たちに海の豊かさや命の尊さを教えてくれます。
沖縄の島々を囲むようにしてある砂浜や珊瑚礁は、ウミガメが生きる上で大切な場所であると同時に、リゾート開発やモズクの養殖といった人間の経済活動にとっても有益な環境。私たちはどうしたらウミガメと共存し、限りある貴重な海の恵みをいつまでも受け取り続けられるのでしょうか?
「ウミガメと人間が共存するには?」
そんな問いに真正面から向き合い、多くの人を巻き込んで活動しているのが読谷村に事務所を置くNPO CHURAMURAです。
2020年に代表のカール・バスティアンさんが始めた活動は、今年で4年目を迎え、コアメンバー5人、リモートスタッフ20人、産卵地の見守りボランティア20人、サポートコミュニティ数百人と大きく成長しています。
「ウミガメはとてもかわいいですよね。どこか不思議で、海の象徴のような生き物。未知の世界を感じさせてくれる神秘的な存在です。ウミガメの魅力が多くの人の心を惹きつけ、一緒に活動してくれる仲間が増えていくことはとても幸せなこと」と話すカールさんは、オーストラリアで生まれ育ち、幼い頃から海洋生物に魅了されてきたそう。
そんなカールさんがウミガメの保護活動(通称:カメ活)を始めたのは、ある日地元の宇座ビーチを散歩していた仲間(CHURAMURAのマッチー団長)が母ウミガメの足跡に出会ったことがきっかけです。
「来日して24年、縁あって沖縄に移住してから14年。雷に打たれたようにウミガメの足跡から目が離せなくなり、自分の居場所と使命にたどり着いたと確信したんです。」
ワンシーズンで13回、ウミガメが産卵に訪れた
ウミガメの足跡から見つけた産卵場を見守っているうちに、同じ宇座ビーチに次々とウミガメが産卵に訪れました。その数13回。産卵から孵化までの約60日間、ウミガメに心を寄せて見守りながらSNSで仲間を募ったところ「ウミガメの赤ちゃんを見たい」「一緒に見守りたい」と言う人が続々とカールさんの周りに集まってきました。
「大切に見守った産卵場からたくさんの子ガメが孵化してくるミラクルを一度でも体験したら、人生が変わるはず。どんどん仲間が増えていき、その人数は読谷村のビーチを端から端まで見守れるほどに。今では、名護以北をカバーする美ら島財団(美ら海水族館の運営団体)、南部の海岸をカバーする琉球大学と並んで、沖縄本島中部の海岸をCHURAMURAが担わせてもらっています」
無事に孵化して大海原に泳ぎ出るミラクルを体験するのと同時に、カールさんたちはウミガメを取り巻く環境の厳しさも目の当たりにしたそう。
「気候変動により砂の温度が上がっている影響で、雄のカメが激減。このため、雄と出会えなかった雌が無精卵を産卵していて孵らない産卵場もあるんです。他にも、産卵した場所が波打ち際に近すぎたために孵化間近の子ウミガメたちが台風で溺れて全滅してしまうなど、悲しい結末もたくさん体験しました」
こうした自然環境の厳しさだけでなく、人為的な悲劇も多くあります。
「ウミガメには草食のアオウミガメや肉食のアカウミガメ、タイマイなどの種類がいますが、全てがIUCN(国際自然保護連合(※1))やレッドリスト(絶滅のおそれのある野生動物の「種」のリスト(※2))や環境省のレッドデータブック(※3)に掲載されている絶滅危惧種です。その一方で、食用や剥製を目的とする採捕許可が出されており、沖縄県内にも生きたウミガメを水槽で展示してウミガメの肉を出している飲食店すらあります。また、モズクやアーサーを食い荒らし、漁網に引っかかって水揚げされるウミガメは、漁師にとっては邪魔者です。昨年は、30匹以上のウミガメが漁師に刺傷されているのが見つかり、刺した漁師は漁網に絡まったウミガメを離す際に身の危険を感じたと説明しました」
(※1)http://www.iucn.jp/
(※2・※3)https://www.env.go.jp/nature/kisho/hozen/redlist/index.html
漁師には、身の安全や高価な商売道具である網を損なうことなくウミガメに対処しなければならない事情があります。ですが、知恵を絞れば共存できるとカールさんは考えています。
「米国では、TED - Turtle Excluder Device - と呼ばれる、漁網にかかったウミガメを逃すための装置の実装が法律で定められています。例えばこうした技術で、漁師の利益を損なうことなくウミガメを守る方法があるのではないか。もっとみんなで模索したいんです」
ウミガメを守る方法のひとつに光害対策があります。産卵のために夜間に砂浜に上陸してきたウミガメは、花火などで遊ぶ人間の気配や明かりに驚くと海に引き返し、海中で放卵してしまいます。ウミガメが安心して産卵できるよう、フロリダ州やハワイ州では夜間の街灯をウミガメに影響のない周波数に保つようルールが設定されているほか、個人の住宅の外灯を海に向けてはいけない決まりがあるそう。警察と同等の権限を持つレンジャーがパトロールをしてルールの遵守を徹底しています。
教育・フィールドワーク・リサーチの3本柱で活動
いずれは公的な事柄にも関わっていきたいと未来を見据えながら、カールさんとCHURAMURAのメンバーは、草の根の保護活動を広げています。
「1週間に2〜3回のペースで出前授業などの教育プログラムを提供しています。小学生から高校生を対象にして、県内の学校や県外からの修学旅行生向けに、ウミガメをはじめ海洋環境問題全体のことやSDGsなどテーマに合わせてプログラムを組み立てています。”カメトーク”だけでなく、英語を使った言葉遊びやクラフトづくり、ビーチを歩くフィールドアクティビティなど、記憶に残る体験の機会をつくり、ウミガメを好きになってもらいたい」
毎年、5月から9月の産卵シーズンには産卵場を見守りながら、毎週ビーチクリーンを続けています。また、ウミガメの死骸が見つかった報告を受けた際には、解剖して死因を調査するリサーチ業務も行っています。
「死骸が見つかったら、調査に駆けつけます。多くの場合、北上した先の海水の温度が低下したことでショック状態を引き起こし、息継ぎのために水面に顔を上げる動きが取れずに溺死した個体。それが冬の北風に乗って沖縄に流れ着くんです。しかし、実際に解剖してみるとプラスチックを誤食していたり、ゴーストネット(海中廃棄された漁網)に絡まって窒息死したりしているケースも確認できています。
こうしたリサーチを通してウミガメの生態や現状をつぶさに知ることで、よりよい活動や発信につなげています。
夢はウミガメのサンクチュアリをつくること
カールさんが未来に向かって思い描いているのは、読谷村にウミガメのサンクチュアリをつくること。必要に応じて人工飼育をしたり、傷ついたウミガメの治療とリハビリができるレスキューセンターをつくり、子どもたちやツーリストが治療中のウミガメに会える場所です。
「久米島と黒島にはウミガメに会える施設があるのですが、沖縄本島には美ら海水族館以外にありません。ちょうど最近、地主さんに相談したのですが、実現するには、地主さんの許可はもちろん、建設費用だけで2億円ほど必要に。それだけでなく、プランニングやマーケティング、ファンドレイジングをしてくれるスポークスマン兼オフィスマネジャーも必要になります」
沖縄では簡単に見たり触れたりできる珊瑚礁の海は、世界中の海を見渡しても0.2%しかないような貴重な環境です。もちろん、そこでウミガメが泳ぐ姿が見られることも、当たり前ではありません。カールさんは、多くの仲間と共にその尊さや美しさを伝え続けることで、ウミガメと美しい海の未来を守ろうとしています。
「孵化した子亀は、20〜30年後にまた同じビーチに産卵しに戻ってきます。その時まで何もしなければ、地域開発などでビーチがなくなったり、ゴミだらけで産卵できなくなっていたりしているかもしれません。そんな悲しいことにならないように、できることと向き合い、問題に気づいている人たちと一緒にやっていきたいのです」
CHURAMURAでは、新メンバーを募っているほか、必要な機材などを集めるためのクラウドファンディングを計画しています。カールさんや海の仲間たちと一緒にウミガメに寄り添い、生態系や環境のことをより深く知り、愛でながら守りたいと思う方は、ぜひ参加してください。お待ちしています!