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【スローに歩く、北欧の旅#10】廃棄リンゴで作る絶品クラフトサイダー
みなさん、こんにちは。北欧を旅するライターの森百合子です。カボニューにつながる、北欧での体験を紹介するこの連載。今回は、デンマーク生まれのおいしいお酒のお話です。
余ったリンゴで起業
クラフトビールに続いてお酒好きの間で注目されている、クラフトサイダー。サイダーといってもお酒です。リンゴを使ったお酒で、フランス語のシードルという呼び名の方がイメージしやすいかもしれません。昨今ではナチュラルサイダーとも呼ばれています。このクラフトサイダーが近年、北欧でも盛り上がりを見せています。
北欧の庭や公園にはリンゴの木が植えられていることが多く、夏の終りから秋にかけての収穫時期には、穫れすぎてしまうリンゴをいかに消費するかが悩みのタネ。
雑誌を見ても「おうちのリンゴでおいしいお菓子づくり!」といったリンゴのレシピ特集があちこちで組まれ、この時期に旅をしているとカフェやレストランのメニューでもリンゴのデザートをよく目にします。家庭ではリンゴのお菓子でもてなしてもらうことも少なくありません。
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それでも毎年たくさん廃棄されてしまうリンゴに目をつけて、サイダーを作ろうと考えたのがデンマークのコペンハーゲンから生まれたデシデアです。
もともとフード業界出身ではない3人が最初のうちは近くの公園や庭であまっていたリンゴを使って手探りで作ったのがはじまり。
ちなみに北欧では日本のように自家醸造の規制が厳しくありません。また酒税が高く、外食費が高くつくなどの背景もあって自家醸造を楽しむ人は少なくないんです。そして自家醸造の延長でクラフトビールやサイダーの起業をするケースもあるんですよね。
アンデルセンの島のリンゴ
デンマークのリンゴは一般的に酸味が強く甘さは控えめで、それがクラフトサイダーづくりには適しているそう。
デシデアのサイダーはすべて野生酵母で発酵させ、無濾過、酸化防止剤を使用しないナチュラルな製法で作っています。一部の製品には発酵のために砂糖を使用しますが、甘みを足すために砂糖を使うことはしていません。リンゴのほかにチェリーやカシス、プラムなども組み合わせて、サワーエールのような酸味のばっちり効いた味から、フレッシュジュースのようなフルーティな味までバリエーション豊かに揃っていて、ワインのように食事に合わせて選ぶ楽しみもあります。
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デシデアのサイダーに多く使われているのが、フューン島で穫れるリンゴです。
フューン島はコペンハーゲンのあるシェラン島と、ユトランド半島の間にある大きな島で、アンデルセンの故郷としても知られる場所。アンデルセンの生家が保存されていてアンデルセン博物館もあり、観光地としても人気があります(なぜアンデルセンの銅像の上半身が埋められているのかは、いまだに謎です)。
このシェラン島では昔から余ったリンゴを無駄にしないよう醸造所に寄付する伝統があり、デシデアはそこに着目。ちなみに寄付するリンゴはすべてオーガニック栽培であることが条件となっています。
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寄付してサイダーと交換
現在ではフューン島以外の他のリンゴ農園とも契約しているほか、一般家庭にも廃棄リンゴの寄付を呼びかけ、寄付した量に応じて、できあがったサイダーと交換しています。
オーガニック栽培であれば、形が不格好でも問題なし。リンゴの使いみちに困っていて、なおかつお酒が好きな人にはたまらない提案ですよね。
デシデアに続くようにデンマークではクラフトサイダーの作り手が増え、8月の終わりには国内外のサイダー醸造所から選りすぐりの味を揃えたサイダーフェスティバルも開催されています。
北欧を旅しているとおいしいリンゴジュースにちょくちょく出会うのですが、お酒好きの方はぜひクラフトサイダーにも注目してみてくださいね!日本でも最近は、デンマークのサイダーを取り扱っているバーがありますし、フェアなどで取り扱われていることもあります(デシデアも少しですが流通しており、オンラインでも購入できます)。見かけたらぜひ、北欧ならではのおいしさを味わってみてください。
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滞在していたアパートにどんどん入ってきた気さくな猫さんと一緒に、スコール(デンマーク語で乾杯)!
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プロフィール 森 百合子(もり ゆりこ)
北欧5カ国で取材を重ね、ライフスタイルや旅情報を中心に執筆。主な著書に『3日でまわる北欧』(トゥーヴァージンズ)、『北欧ゆるとりっぷ』(主婦の友社)、『いろはに北欧』(学研プラス/地球の歩き方)など。執筆活動に加えてNHK『世界はほしいモノにあふれてる』『趣味どきっ!』などメディア出演や、講演など幅広い活動を通じて北欧の魅力を伝えている。築88年の日本家屋に暮らし、北欧デザインを取り入れたリノベーションや暮らしのアイデアも実践中。
HP:https://hokuobook.com
Instagram:@allgodschillun
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