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「ゴミを拾った。いい波に乗れるかな」『SURFIN' LIFE』編集長のビーチクリーン

日々、海のゴミや汚れを目の当たりにしているサーファーたち。だからこそ、彼らは先陣を切って海をキレイにする活動に取り組んでいます。そんなビーチクリーンの動きから、いまの世の中の環境意識に対する正直な想いまで、『SURFIN' LIFE』の編集長・岩田翼さんにお話しいただきました。


自然の力をダイレクトに。サーフィンの魅力

――サーフィンを始めたのはいつですか?

ずっとサーフィンしてきただろうみたいなこんな見た目ですけど(笑)、実はまだ3年目です。

Webや紙媒体の制作をしていたとき、知人から「『SURFIN'LIFE』を手伝ってくれないか?」と相談を受けて。さすがに経験がないのはまずいなと知人に連れて行ってもらい、それからほぼ毎日、ときには1日2回、海に通いました。今日もこれから千葉に行きます(笑)

【プロフィール】岩田翼さん
1986年生まれ、神奈川県茅ヶ崎市在住。クリエイティブカンパニー、GOODIES GOOD,GOOD COMPANY.代表を務め、2020年よりサーフィン専門誌『SURFIN’LIFE』編集長に就任。また、アウトドアやファッション、カルチャーなど幅広い分野に精通し、そのノウハウを活かして雑誌や広告、カタログなどの数多くを手掛ける。

――そこまでハマることになったサーフィンの魅力って何だと思いますか?

僕は15年間スケートボードをやっていたのですが、サーフィンは初日に沖に出ることもできなくて。すごく悔しくて、負けず嫌いなのでどんどんハマっていきましたね。

あとは月並みですが、同じ波は二度とこないし、自分の力ではどうしようもできないことも多くて、そこが魅力なのかなと思います。まさに、自然と共にあるスポーツです。

スケートボードは“マグレ”がなくて、練習してきたこと以外は絶対にできない。その場でどう実力を発揮できるかを競うんです。でもサーフィンは、波次第で自分の実力以上を発揮できることがある。本当にいい波って1年で1、2回あるかどうかだけど、その波に乗れたとき、「あれ、こんなに上手かったっけ!?」ってプロサーファーになったような感覚になります(笑)。

それに、サーフィンは一生できるスポーツです。生まれてからすぐ海に入り、亡くなるまで波に乗り続けたサーファーもいる。そういう意味では、僕はまだまだひよっこです。

雨の翌日は海が汚い

――自然の力をダイレクトに感じられるのがサーフィンの魅力なのですね。海の汚れが気になることはありますか?

びっくりするようなゴミをビーチで見かけることはありますね。海から流れ着いた洗剤容器や不法投棄されたテレビ、冷蔵庫、BBQのゴミも多い。特に雨が降った翌日は、海のなかが汚いんです。瓦礫や泥で水が濁っているなかに、お菓子の袋が浮いていたりして。あんな広大な海のなかでゴミと隣り合わせになる確率って、なかなかありえないことだと思うんですよ。

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写真提供:Surf and Sea

僕の印象では、人が少ない海はゴミを捨てやすいからなのか、電化製品や漁業網のような大きなゴミを見かける。逆に観光地に近い海は、水が濁っていたとしても、ビーチ自体は意外とキレイだったりするんです。それはビーチクリーンが当たり前になっているからかもしれません。

注目のビーチクリーン活動

――サーファーのみなさんのあいだでは、どんなビーチクリーン活動の動きがありますか?

プロサーファーはもちろん、ブランドや非営利団体など、海にかかわる人たちがさまざまな形でビーチクリーンを推奨しています。なかでも「Surfrider Foundation Japan」というNGOは大きな団体で、環境保護を目的にビーチクリーンを主軸として活動しています。

Surf and Sea」というNPO法人は、昨年の東京オリンピックに出場していた大原洋人さんのお姉さん・大原沙莉さん(現ボディボード世界チャンピオン)や2019年女子サーフィンのグランドチャンピオン須田那月さんが立ち上げたもので、ビーチクリーンだけでなく、拾ったシーグラスをアクセサリーに生まれ変わらせるワークショップを開催するなど、アップサイクルな取り組みもしています。

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写真提供:Surf and Sea

ほかにも、サーフィン大会中のイベントや子どもたちのサーフィンスクールでのプログラムなど、サーフィンを楽しむ流れでアクティビティのひとつとしてビーチクリーンをしようという動きもありますね。

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写真提供:Surf and Sea

海も家も同じ。ゴミを散らかされている感覚

――やはりローカルの方(地元のサーファー)は、海をキレイにしようという意識が強いものですか?

そうですね。僕からすると、そもそもローカルの方は海に対する感覚が違うのかなと。彼らは生まれたときから目の前に海があって、家族や先輩にプロサーファーがいて、そんな日常のなかで育ってきている。地元の海にゴミを放たれることは、家のなかでゴミを散らかされているのと同じ感覚なのではないかと思います。

大澤伸幸さんというJPSAグランドチャンピオンを獲得したプロサーファーがいるんですが、彼は「あ、ごめん、ちょっと気になっちゃうから拾うね」って、話を中断して、飛んできたビニール袋を拾いに行って。「生まれたときから目の前に海がある」と言っていました。僕のことに置き換えると、玄関前に置いたゴミ袋をカラスが突いていたとしたら、絶対に片付けますよね。それくらいの感覚で、日常的に海のゴミを拾っているんだと思います。

ゴミはゴミ箱に。当たり前の行動を、当たり前に

――日常生活で、岩田さんが心がけていることはありますか?

当たり前のことを当たり前にやる、ちゃんと人として生きるということですね。ゴミを放置しないことって当たり前で、そのあとにゴミを拾うとか、少なくするという活動がある。ゴミの総量は同じだとしても、地球上のすべての人がチリひとつ外に落とさなければ、いまとはもう少し違う未来があったはず。しっかりとゴミはゴミ箱に捨てる、飛んでしまったビニールの袋は絶対に取りに行く。

ゴミを拾うことって気持ちいいと思うんですよ。今日はひとつゴミを拾ったからいい波に乗れるかなとか、徳を積むみたいな感覚でできたらいいですよね。その結果として、海がキレイになればいい。

逆にサーフィンをするまでは、飛んで行ったビニール袋を追いかけるのは諦めることがあったかもしれません。あの袋を取りに行けばいい波に乗れるかもしれないって、そんなふうに暮らしていけたらなと思っています。

――自然体で、海の環境を守りたいということでしょうか?

はい。「しなくちゃいけない」と大きな圧がかかるよりもみんなでナチュラルにキレイな海や山で過ごせる環境を作っていくことが大事だと思っていて。いまの時代、部屋を掃除するロボットはいるし、カメラが空を飛んでいるし、宇宙へ旅行に行くこともできる。だからいつかは、海がキレイになるテクノロジーだってできるかもしれない。

そういった根幹から変わる仕組みが出てくるだろうと僕は思っているんです。だからいまは、ポジティブな未来を想像しつつ、ひとまずできることとして「紙ストローでお茶してるなう」という感じですね(笑)

落ちているゴミをひとつ拾えばラッキー

――ひとりの生活者ができることは、どんなことだと思いますか?

繰り返しになりますが、当たり前に、ゴミはゴミ箱に捨てる。あと、海から遠方に住んでいる場合は、ビーチクリーンをしている団体に寄付することもひとつのできることだと思います。東京に住んでいて週末しかサーフィンができず、ビーチクリーンの時間が取れない人も多いはず。お金を使うことがビーチクリーンの一環になって、サーフボードに貼るステッカーのようなもので還元されるならば、ローカルからもこの海をキレイにする意識がある人だと認識され、いわゆるローカリズムとの調和を生むこともできるのではないか、と考えたりしますね。

*  *  *  

広い視点で海の環境について考えながら、日々の小さな一歩から向き合うことが大事だと語ってくれた岩田さん。「落ちているゴミをひとつ拾えばラッキー」をモットーに、軽やかに、地球によりいいことに取り組んでいきたいですね。

写真提供:岩田翼、NPO法人Surf and Sea
取材・執筆:鈴木桃子


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