環境保全に取り組む、即成院・平野雅章住職に聞く。日本ならではの自然や生物との向き合い方【後編】
一般社団法人「自然環境文化推進機構」の理事の一人でもある、京都・即成院の平野雅章住職。近年では環境省の推進する「生物多様性のための30by30アライアンス」に参加するなど、自然環境の保護に力を入れています。
後編では“自然との結びつき”や“生物多様性”との向き合い方について、平野住職ならではの考え方をお伺いしたいと思います。
(即成院についてのインタビューはこちら)
日本の伝統的な文化から始める、京都ならではの環境へのアプローチ
日本は小さな国ですが、京都にはお花やお茶、寺社仏閣の手入れされた庭、そこにいる虫や育まれた草花――こうしたさまざまな文化が根付いており、そこを通して環境を見つめ、守ることができるのではないか。自然環境を「文化と祈り」を通じて残していけるのではないかと考えています。
豊かな自然がなければ、人はもちろんのこと、動植物も生きていけません。さらに言えば、魂も存在できないと感じているので、大切にしていく必要があります。では、どのぐらい豊かな自然を保てばいいのか?そこで一つの指針としたのが、即成院が建立された平安時代です。当時の自然環境やそこに向けられていた畏敬の念などを、活動を通じて取り戻したいと考えています。
たとえば、源氏物語には秋に鳴く虫が登場するのですが、京都御苑、京都迎賓館、京都御所といった場所でその虫が今も生息しているのかを調べ、存在しなければ取り戻す方法を考える。このように日本の文化を活動の中に交えながら、生物の多様性の維持・回復に貢献していきたいですね。
自然環境文化推進機構として、環境省の「30by30アライアンス」に参加
「30by30」は「2030年までに陸と海の30%以上を保全しよう」という目標。2021年のG7サミットで約束され、世界各国が取り組んでいます。この目標を達成することで、生物の絶滅リスクが減少する見込みがあると言われています。
「自然環境文化推進機構」には華道や茶道の流派も参加。そこで扱っているお花やお茶をどうすれば守れるのか、みんなで考えながら取り組んでいます。また現段階では、私たちがこうした取り組みに“参加している”という意思表示をすることで、生物多様性を保護するという考えを広めているところです。
走馬灯に映る原風景を美しく保つために、自然に想いを馳せる
普段からできる行動でいうと、「自然を思い浮かべる時間を作る」こと。それだけでもカボニューな時間だと思います。“自然環境”というと、みなさんがまず思い浮かべるのは、山や川、そこに吹く風といった原風景のような光景ではないでしょうか。たとえば、日々の食事のときに、その食材が育った環境を思い浮かべるだけでも、地球に対する何らかの行動につながっていく――そう私は考えています。
私はこれまでの人生の中で三度走馬灯を見ています。一回目は、大学生の頃。バイクで事故にあい、車に跳ね飛ばされたことがありました。そこでいわゆる走馬灯を見たのですが、自然の豊かな山々が広がっていました。走馬灯はその人の原風景に影響を受けるとされているので、私のように京都の山間に生まれ育った人は、山の景色を見るのかもしれません。その死に際に見る走馬灯が、もし汚れていたらどうでしょうか?その先につながる来世に生まれ変わりたいと思えなくなるかもしれませんよね。
今と比べ自然豊かであったおよそ100年前までは、走馬灯に現れる景色も美しいもので、迷わずに成仏できたのだと思います。こうした自然環境を取り戻すことを、祈りを通じて広めていくこと。それが、私にできる保護活動だと考えています。
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平野住職、ありがとうございました。
「100年前にはおそらく美しかったであろう原風景は、取り戻そうとするタイミングが早ければ早いほど、元の姿に早く近づくはず」ともお話されていました。
食べ物をいただくときに、その食材が育った背景を考えるなど、「自然を思い浮かべること」が大切。そこから「具体的に、私にできることは何か?」を見つけるために、カボニューではわかりやすいアクションを伝えつづけていきます。